思い出せないんだ。
9歳以降の記憶が思い出せない。ぼんやりとしたものはあるのだが、ハッキリと何があったのか思い出せないんだ。

餓死しそうになっていたところを拾われて、お日さま園で育てられて。園の皆と仲よく遊び、時には喧嘩したけれど仲直りしてさらに仲良くなって。…そう、あの夜だ。あの夜までは鮮明に思い出せるんだ。



あの日の夜は夕食をとらずに父さんに連れられ、どこか遠い所に車で向かった。
そこから、…そこから思い出せないんだ。…私は、何故あの日父さんに…?もしかして、そこで何かあったのだろうか?
いや、でも私は知っているんだ。それ以降のことを。ハイソルジャー計画のことだって、父さんの目的だって、雷門イレブンを潰すことだって。でも、まるでその情報を無理やり詰め込まれたかのように、情報だけが私の頭の中にあって…。


情報だけが、頭の中にある…。……仮にそうだとして、では誰がどのような目的で私にそんなことを…
痛む頭を押さえながら周りを見る。プロミネンスとダイヤモンドダストの選手同士で揉めている。…なにをしているんだ、私たちは志を同じくした仲間ではないか。そんなくだらないことで争うなんて馬鹿げている。



〈そう、馬鹿げている。侵略なんて馬鹿げている。争いなんて、馬鹿げている〉



「!?」



自分の声が聞こえた。だが、今の自分の声より幾分か穏やかだった。
もう何度目か分からなかったが、私は再度相手側のゴールにいる立向居勇気という少年を見る。どうしてこんなに、胸が苦しくなるのだろう。彼だけじゃない、雷門の選手を見ていたら、苦しくなってくるんだ。何度も手を伸ばしかけて、思いとどまる。彼らと戦いたくないと、何故だか思ってしまう。苦しかった。苦しくて頭が痛くて、涙が出そうだった。



ガゼルとバーンも、カオスの選手同士のいざこざに気が付いたようで眉間に皺を寄せていた。彼らはあの必殺技を使って、カオスの選手にこの試合がどれほど重いものなのかを分からせるつもりらしい。



「潤、君もよくよく見ておくんだ。この試合は確かにジェネシスの称号を手に入れるためでもある。だが…」
「お前が…カーネルが、俺らの一員だってことをグランや雷門に知らしめるためでもあるんだ」
「それは、どういう…」
「潤は、潤は私を見ていればそれでいいんだ。何も考えなくていいんだ」


その瞬間ホイッスルが鳴った。途端にバーンとガゼルがボールを持って駆けていく。先ほどのバーンの言葉に引っかかるものがあったのだが、それよりも二人の表情が気にかかった。バーンもガゼルもいつもの自信に満ち溢れた顔ではあったが、でもどこか辛そうに見えたのは私の気のせいだろうか。




「「ファイアブリザード!」」


バーンとガゼルが同時に飛び上がりボールを蹴ると、炎と氷に包まれたシュートがゴールに襲いかかった。
立向居勇気がムゲンザハンドで応戦するが、威力負けしてそのまま一点“入れられてしまった”

カオスのメンバーがざわついている中、私は立向居のもとへ集まった雷門のメンバーをただ、見つめていた。仲間同士で声を掛け合う彼らを見て、ぼんやりと思い出した。



そういえばうちのチームはとても弱くてどこの学校と試合しても負けて、でも、それでも皆いつも一生懸命だった。毎日頑張って練習して、楽しい時も辛いときもいつも笑顔だった。毎日練習が終わった後、夕暮れに染まるこじんまりとした通りを歩きながら帰るの。たまに皆が好きなお店でとんこつラーメンを食べて帰るのが楽しみだったり。そんな日は帰ったら決まって兄さんが渋い顔をするんだけど、すぐに笑顔になって、私も笑顔になって。…みんながみんな仲が良かった。みんなが笑顔で、私も自然と笑顔になるんだ。優しい気持ちになれるんだ。その中でも、最後まで彼は私の後ろで私を見てくれたっけ。でも今は、こうして前から受け止めようとしてくれる。受け止めて、くれる。そうだ、私は……私は、



カオスの内輪揉めもなくなり、再びこちら側が有利になる。バーンとガゼルも気をよくしたのだろう。私にボールを渡してきた。
私はパスを受けてゴール前まであがる。ゴール前には立向居が構えている。視線が絡み合う、私は笑った。



「アトミックフレア!」



全力のアトミックフレアだった。
だけど、それは立向居のムゲンザハンドによって阻まれる。…………。

私は着地して、それからゆっくりとゴールの前まで歩く。立向居が、泣きそうな顔をして私を見た。




「すごいね、立向居。みんな、驚くよ」
「潤…せんぱ、い…」
「……ありがとう。ただいま」
「…おかえり、なさい」





あの頃の笑顔のまま、私たちは手を取り合った。






20130902

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