最近、潤から連絡がない。
彼女が旅に出かけてから、定期的に鳴っていた携帯電話は息1つ漏らさない。俺からかけても、繋がらない。
立向居とは入れ違いばかりだ。こちらが電話しても向こうは出ない、向こうが連絡してきても俺が出られないことばかりだ。だけど一度だけ留守番電話に立向居からメッセージが入っていたことがある。「俺が必ず連れ戻します」…これがどういう意味なのかは分からないが、多分きっとなにか俺には想像もできない大変なことが起きているのだと分かった。


ただ、俺には。俺たちにはどうすることもできない。


いつものように部活に向かい、チームメイトと一緒に練習をして、帰り道で買い食いをして家に帰る。
筑紫も、志賀も松林も…陽花戸イレブンの全員が全員、いつも通りに過ごしながらも、どこか浮かない顔。…ついに俺は潤の家に行った。いつもなら潤のお兄さんは優しく微笑み迎えてくれるのに、今日はとても焦った様子で額には汗が滲んでいた。お兄さんは俺に無理やり作った笑顔で笑いかけながら「大丈夫」と言ったが、俺の心のもやもやは晴れることはなかった。多分お兄さんのもやもやも晴れることはないのだろう。




ニコニコニコニコ。笑顔が貼りつけられた仮面のように笑う潤は偽りの笑顔少女。
俺や筑紫や立向居…陽花戸イレブン、そして彼女の兄にしか心を開いていない潤。きっと雷門ではほかのメンバーとの間に壁も作っていたのだろう。
それが悪いとは言わない。だけどそれが彼女自身を知らず知らずの間に傷つけているのではないのかと俺は思う。

まだ電話で潤に連絡が出来ていたあの頃、いつものしっかりとした口調とは正反対の弱く震えた声で俺に問いかけてきた質問が頭から離れない。


「…戸田は、待っててくれる?」


……アイツは、俺たちには分からない大きな何かを抱えているんだ。そんなことは、彼女と腹を割って話をしたあの日から知っていたはずなのに。



「潤…」



でも、俺にはこうして彼女の帰りを待つことしかできないのだ。



















潤と連絡が取れなくなって数日が過ぎました。
旅に出した時から…いや、潤を引き取った時から、いずれはこうなる運命なのだと思っていました。



潤が家に来たのは今から五年前の話。僕の両親は交通事故で他界し、施設でたった一人の妹と一緒に育ってきた。だがそんな妹を数年前に病気で亡くし、心にぽっかり穴が開いたまま就職し、何も変化のない日々を過ごしていた。そんな時、たまたま自分の育った施設の管理人と久しぶりに再会し、お酒を飲んでいたら…とある施設の子を引き取らないかと言う話を持ちかけられたのだ。

その時は詳しく伝えられなかったのだが、なんでも、もうどの施設に入ることは不可能で完全に身寄りが無くなった子…らしい。
意味が分からなかったが、でも僕にはその子がとても可哀想に思えた。それと同時にまだ会ったこともないその子を妹と重ねてしまった。

寂しかったのかもしれない。
変わり映えのしない毎日、僕は誰かにおかえりと言ってほしかったのかもしれない。
僕はその子を引き取ることを決めた。



やってきたのは瞳に影を落とした女の子。
彼女のいない部屋で、彼女がついこの間までいたという施設の吉良という男と話をする。そこで私はゾッとするような話を聞かされた。大人の身勝手すぎる行動で、潤はすべてを失ってしまった。僕は憤った。目の前の吉良という男に。だが釘を刺されてしまった、このことは他言無用で。もし口を開けば潤を殺してしまう、と。
僕は食い下がり、それを見た吉良はにんまりと笑い我が家を後にした。…僕は、とんでもないことに首を突っ込んだなと乾いた笑いを零すと同時に潤を必ず守ると誓った。


それから、僕は潤を本当の妹のように育てた。記憶のない彼女の左目は漆黒。
それでもどうか、潤が幸せに、笑って過ごせるようになる、その時がくるように…僕は願いました。






キャラバンに乗って旅に出ると言った潤。本当は旅になんて出てほしくなかった。きっと…いや、多分絶対に妹は傷ついてしまうから。
だけど、だけれども…その時が来たのかもしれない。潤なら、きっと乗り越えることができるだろうと、僕は思うから。

心配だけど、大丈夫。潤には潤が思っているよりもたくさん、きみの帰りを待ってくれている人がいるのだから。…だから、早く笑顔でただいまと声をかけてくださいね、潤。


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