俺たちは潤を連れてガゼルたちが試合をしているスタジアムまで足を運んだ。
潤は少しだけ記憶を取り戻しかけていたようだから、軽く洗脳し直した。…彼女が少しでも記憶を思い出して混乱してしまったら、困るからね。

ダイヤモンドダストが圧倒的に雷門をおしているこの試合。隣にいたバーンがぼやいた。

「つまらん試合だ」
「どうかな、見ててよ。円堂の熱さがわかるから」
「あのゴールキーパーが円堂…」
「どうしたんだい、潤」
「いや、これからの展開が楽しみだと思ったんだ」


潤が目を細めて試合を見守る。…円堂くんたちを見ても何も思わないみたいだ。でも気を抜いてはならない。少しでも何かを思い出したような素振りを見せたら、すぐにでも連れ帰らなければならない。
…今日はあくまでも雷門イレブンの力を潤に見せるためだけにやってきただけだからね。

するとグラウンドに動きがあったらしく、バーンが声をあげた。俺もすぐにそちらのほうを見ると、金色の長い髪の男が、グラウンドに侵入してきたところだった。


「あれ、誰だろう」
「フットボールフロンティア決勝で雷門中と戦った世宇子中キャプテンの亜風炉照美だよ」
「敗北者が今更何の用だよ」
「…雷門に入るみたいだね」


潤の言葉にグラウンドに視線を戻すと、ユニフォームに袖を通した亜風炉くんの姿が。どうやら負傷した選手と交代したようだ。
バーンが眉間に皺を寄せる。

「おいおい、こんなのアリかよ」
「フッ、面白くなってきたじゃないか」
「どう試合展開が変わるか、見物だね」

だけど、予想とは裏腹につまらない展開になってしまった。
元々敵だった亜風炉くん。そんな彼を他の選手が信じることが出来ずに、何度もチャンスがあったにも関わらず全てを無駄にしてしまっていた。
ガゼルの攻撃を円堂くんが防いで難を凌いだが、これでは得点を決めることも出来ない。無駄足だったか?…そう思っていた時だった。


「アフロディ!」

1人の選手が、亜風炉くんにパスを渡した。そこで、試合の流れが大きく変わった。
ヘブンズタイムで相手を避けた亜風炉くんは、豪炎寺くんと力を合わせてガゼルを抜き、そしてゴールを決めたのだった。


「いいぞー!このユニフォームを着れば、気持ちは一つ!皆で同じゴールを目指すんだ!」

円堂くんの言葉に、潤が少しだけ眉根を上げる。
そうか、潤もガゼルと同じように気づいたみたいだね。…さすが、というべきかな?それとも、心の底で何か感じるものがあるのかもしれない。彼女と円堂くんは少しだけだけど、一緒にいたからね。


「何やってんだよ、先に失点とかありえねーだろ」
「でも、ガゼルは感じ取ったみたいだよ」
「何を」
「…雷門の、円堂守の力をさ」
「ああ?」
「言っただろ、戦えば分かるって」
「何だよ。アンタはいつももったいぶりすぎだぜ」
「確かに、グランの言う通りだと思うな。円堂は熱いね。言葉一つで一気に皆の気持ちをまとめることができる」


その後、本気になったガゼルガノーザンインパクトを決めて雷門から一点をもぎ取った。
俺は溜息を吐き、潤とバーンと共に観客席を後にする。前半終了のホイッスルが高々と鳴り響いた。



「互角ってのは恥ずかしいんじゃねーの?」
「勝てるよね、円堂くんに」
「…私は負けない。ダイヤモンドダストの名に懸けて!」
「ガゼル…」
「…見てて、潤。私は勝つよ。そしてその勝利をキミに捧げるから」
「…頑張って」







後半戦が始まった。先のガゼルの言葉も虚しく、両チーム一進一退の攻防戦が続いていた時だった。
…あの、ナイト気取りにボールが渡った。彼はドリブルで上がっていくが、ガゼルに目をつけられてしまった。…彼の指示でダイヤモンドダストのメンバーはフィールドを駆け上がり、そしてフローズンスティールでボールを奪われてしまった。思い切りスライディングされた彼…立向居くんは吹き飛ばされてしまった。


「っ…」
「……」

…俺は、聞き逃さなかった。
立向居くんが吹き飛ばされた時に、潤が息を呑んだのを。

バーンに目配せすると、彼はすぐに分かってくれたみたいで、潤に声をかける。
今からプロミネンスの練習があるから、そう言うと潤はすぐに納得したようで、バーンと共にスタジアムを立ち去った。


「立向居勇気、か…」


まだ潰すには早い。彼が潤にとってどのような存在かは知らないけど…きっと、俺たちの邪魔になる存在なのだろう。叩き潰すのは当たり前だが、それだけでは興がない。…立向居くん、キミにとって一番最悪な方法で、キミを潰してあげるよ。

それが、怒りをどこにもぶつけることの出来ない俺たちからの、八つ当たり。
…そうこうしている内に、試合は同点のまま終わってしまった。俺はフッと溜息を吐き、それからフィールドに降りた。


「…見せてもらったよ、円堂くん。短い間によくここまで強くなったね」
「エイリア学園を倒すためなら、俺たちはどこまでだって強くなってみせる」
「いいね、俺も見てみたいな。地上最強のチームを」
「本当に思っているのか?」
「…………ふふっ、じゃあまた…「潤先輩はっ!」…」
「潤先輩は、どこですか!」


円堂くんと俺の間に割り込むようにして入ってきたのは、立向居くんだった。俺はスッと目を細める。隣にいるガゼルが思い切り立向居くんを睨みつけていた。


「潤なら、俺たちと一緒に此処にいたよ。さっきまでね」
「え…先輩が、此処に?」
「まあ先に帰ってもらったけど」
「な、んで…?なんで俺たちがいたのに、先輩は顔を合わせることもなく…」
「君たちなんて、きっとどうでも良かったんだよ、潤にとってはね」
「!!」
「ふふっ、それじゃあまたね」
「待てッ!」


ガゼルとダイヤモンドダストのメンバーを連れて、俺たちは本部へ帰還した。
見たかい、最後の立向居くんのあの悔しそうな顔!…まったく、ゾクゾクするな。



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