豪炎寺さんが帰ってきた。イプシロンに勝てた。希望が見えた。だけど、だけど俺は…。

「何も出来やしないくせにいい気になるな」
エイリアの選手に言われた言葉が、俺の心を覆いつくしていた。





あの時、先輩が俺に向かって伸ばしてきた手。…俺はそれを取ることができなかった。
あの時、俺が先輩に触れようと伸ばした手。振り払われて、チクリチクリと痛みが手と胸を襲った。

エイリアの人に連れて行かれるとき、ぎゅっとあの人のユニフォームを握った震える手、身体。



何故、なんで…、なんで俺は先輩を一瞬でも疑ってしまったのだろう。
いつも励ましてくれた優しい先輩、俺の大切な女性。
二人きりのキャラバンで、初めて見せた涙。憧れだった先輩の弱さを見て、俺は彼女を守ると誓ったはずなのに。


俺の、せいだ。俺のせいで、潤先輩は連れて行かれてしまった。
エイリアの人間と関係があろうとなかろうと、潤先輩は俺の大切な人には変わりないのに。




沖縄での最後の練習、全く身が入らなくて鬼道さんに怒られる。
鬼道さんはチームのことを人一倍考えている。鬼道さんと先輩は仲が良かった。こんなことがあってショックを受けているに違いないのに、落ち込んだりしていない。ただ、すこしだけイライラしているようだ。

吹雪さんを初めとしたほかの皆さんも、落ち込んでいた。理由はそれぞれだろうけど。
だけど、そんな中…円堂さんだけはいつも通りだった。落ち込むみんなを叱咤して、練習に励んでいた。


「今わからないことを考えても仕方ない。勝ち進めばきっと本田にも会えるだろ!だから練習して強くなるんだ!」

円堂さんの言葉はまるで魔法のようで、みなさんの気持ちがフッと晴れた。
だけど俺の気持ちが晴れることは無かった。

雷門の人たちより潤先輩と一緒にいた時間が長いから、俺は潤先輩に対して特別な感情を抱いているから。そして、俺のせいだから。
円堂さんたちは励ましてくれたけど、悪いけどそんなので晴れるわけがなかった。



抜け殻のようになった俺。
そんな俺をあざ笑うかのように、物語は進んでいく。









東京に戻ってきた俺たちの前に立ち塞がったのは、潤先輩を連れて行ったエイリアの奴で。
抜け殻だった俺は物凄い勢いで奴のもとまで走ってその胸ぐらを掴んだ。



「潤先輩はどこだっ!」


必死で情けない俺を、エイリアの…ガゼルは害虫でも見るような不愉快極まりないとでもいうような目で見て、物凄い力で俺のことを払いのけた。
倒れる俺を睨みつけて、ガゼルはニヤリと笑った。



「潤はもう、私のものだ」




ああ、俺は…俺、は…俺は、俺はっ!




20130527 修正
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