恐らく元に戻った、俺たちの日常。
…だけど、そこには違和感しか存在しなかった。



グランのトコのゴールキーパー、ネロの部屋に行きたいらしい潤を連れて施設内を歩き回る。だが、生憎俺はヒートやガゼル、グランの部屋ぐらいしか知らないから、妹を引き連れて探し回っていた。



グランにエイリア石をつけられてから、一時間後に…潤は目を覚ました。彼女は、メイドが着せたプロミネンスのユニフォームに身を包んでいた。彼女の目を覆っていた前髪は真ん中で分けられ、真っ黒の瞳が顔を出す。…ちなみに、潤の持っていた物は全て捨てた。…といっても、雷門のユニフォームだけだが。
目を覚ましたと同時に、笑顔で笑いながら俺に抱きついてくる。ガゼルが駄々を捏ねた。グランが静かに笑った。彼女がいるだけで、ここの空気が180度変わる。そう、まるで昔に戻ったみたいに。


「ところで、なんで皆ここに勢ぞろいしているんだ?任務は?」
「…潤、お前…ホントに…」
「どうしたの、バーン?」
「……」
「言っただろう、バーン。今の君はバーンなんだ。昔に戻ったけど、本当の昔には戻っていないんだ」
「……っ」


潤に宇宙人ネームの「バーン」と呼ばれて、ショックを受けてしまった。
昔には戻ったけど、本当の昔には戻っていない。…妹はいるべき場所に戻ったけど、楽しかったあの頃に戻ったわけではないんだ。今の俺はバーンなんだ。プロミネンスのキャプテン、バーンなんだ。


「グラン、何の話?…全く理解できないんだけど」
「何でもないさ。…そうだ、バーン、ガゼル、潤。今日の夕食は君たちだけ別室でとってくれないか?」
「何故だグラン」
「…根回しをしないといけないからね」
「……他のやつらに、か」
「ああ、そうだ。…じゃあ潤、また後で君の部屋に行くから」
「ああ分かったよ」


そう言うと、グランは部屋を出て行った。すると入れ替わるように食事を持ったメイドが入ってくる。


「お食事の用意ができております」
「早いな、ありがとう。そこの机に置いてくれ」
「畏まりました]


食事を置いたメイドが頭を下げて去っていくと、俺たちは食事を取り始めた。
ガゼルの野郎がいつもより饒舌になってやがる。…こいつは昔から潤のことが好きだったから、嬉しいんだろう。…まあ、かく言う俺も嬉しいんだけど。

ガゼルの話に時々、笑いながら相槌を打つ潤。…こいつは、5年間どういう風に暮らしていたのだろうか。そのことを考えたら苛立つけど、それでも気になって。


「バーン?箸が止まっているぞ?」
「潤、バーンはナスが嫌いなんだ。だから固まっているんだよ。まったく、情けないね」
「……」
「なんだ、図星か。まったく、よくそれでプロミネンスのキャプテンを…」
「ガゼル…苛めないでやってもらえないかな。バーンは一応私の兄なんだ」
「一応ってなんだ、一応って!」
「…ふふっ、やっと元気になったな」
「…は?」
「…私が目覚めてから元気がないように見えたから…。バーンには笑顔でいてほしいんだ」
「…潤」
「私がこんなこと言うなんて、柄じゃない?」
「…いいや、ありがとな」


俺が礼を言うと、にこりと笑う潤。だが、何故か違和感を感じる。…俺の、気のせいか?
…潤は昔のままの性格だ。面倒見がよく優しく、そして強い。だけど、感じる違和感。これは一体何なんだ?


「潤、私はこれから練習があるから先に失礼させてもらうよ」
「ああ、わかったよガゼル」
「…風呂に入った後に、部屋に行っても良いかい?」
「もちろん」
「じゃあ、また後で」


ガゼルが出ていった後、俺たちも立ち上がる。とりあえず、グランが用意したっつー潤の部屋にでも…


「あ、バーン。お願いがあるんだけど…」
「あ?どうした」
「ネロの部屋って、どこだったっけ?…私、自分の部屋とバーンとガゼルとグランの部屋しか分からなくてさ…」


きっと、グランは必要最低限のことしか潤の頭にインプットしなかったのだろう。
仕方ない、と思い俺は潤を連れて研究室を後にしたのはよかったのだが…。…まあ、ここで冒頭に遡るわけだ。




とりあえず研究所を回っていると、足音が聞こえた。それと同時に向こう側のドアが開いて、背の低い緑色の髪の男が入ってきた。
それを見た瞬間、潤が笑顔になる。そして「ネロ!」と名前を読んで、奴のもとへ駆け寄った。


それと同時に、俺はある事に気づく。
俺が感じていた違和感の正体がわかった。…潤は、笑えなくなっている。…いや、笑えているのだが…彼女の笑いは、昔の潤の笑顔じゃなくなっていた。




潤は、うまく笑えなくなっていた


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