イプシロンの怒涛の攻撃を防ぎきれず、ゴール前まで侵入を許してしまう。
だけど、イプシロンの三人がかりのシュートは円堂の新必殺技によって防ぐことが出来た。
それからすぐにボールを回し、前へ攻め上がる雷門。だが、一之瀬が打ったシュートは相手のGKに止められてしまった。
すると、GKはゆっくりと誰かを指差した。
「お前だ、お前が打ってこい!」
GKは物凄い勢いでボールを戻す。その先にいたのは吹雪だった。
彼はそれを受け止め、黙ってGKを見つめている。
「気にするな吹雪、お前は自分のプレーをすればいいんだ!」
「わかってる…、初めからそのつもりさあ!」
彼はそう言うと、ドリブルを始める。
いつの間にか髪は逆立ち、いつものおっとりとした雰囲気とは正反対の荒々しいものになった。
これが彼の言っていた…アツヤの人格というものなのだろうか。それにしても、こんなに目に見える形で変わってしまうなんて思っていなかった。
彼は相手の選手を次々に吹き飛ばし、ゴール前まで上がっていく。そしてそのまま、必殺技を使いシュートをするが…相手のGKに防がれてしまう。…ここからが、問題だった。
GKは吹雪にパスをし、それを吹雪が必殺技で蹴り、それをGKが必殺技止める。…その繰り返しだった。
まるで遊んでいるようなそれに、潤は頭が痛くなる。その均衡が崩れたのは、GKが吹雪のエターナルブリザードを片手でキャッチした時だった。
「そんな…馬鹿な…」
「…楽しみにしていたのに、この程度とはな」
GKは持っていたボールを投げ捨て、吹雪に背を向けた。
「お前はもう必要ない」
「!!」
GKの放った言葉に、吹雪は目を見開き固まってしまった。
「必要、ない…、士郎としても必要ない…アツヤとしても必要ない…、じゃあ、僕は…俺、は…っ、何なんだぁっ!」
吹雪がそう叫んだ瞬間、彼の体は後方に傾き、そして尻餅をついた。
ただならぬ彼の様子にチームメイトが駆け寄る。
円堂が彼の体を揺さぶりながら名前を呼ぶが、吹雪はうつろな目のまま何も答えない。
試合は一時中断、吹雪の代わりにリカがフィールドに入ることになった。
「…吹雪、」
潤は思い出す。沖縄に渡る前に、吹雪に聞かれた質問を。
『シュートを決められなければ、皆から必要とされないのかな?』
なるほど…こういう、意味だったんだね。
ベンチで俯く吹雪を見て、潤はすぐに相手のGKへ視線を向けた。
…私が、ゴールを決めてやる。
試合が再開され、再び均衡状態に陥る。ボールを奪われ、シュートを円堂が防いで、それを前線に戻し、また奪われ…。
吹雪という精神的支柱を失った雷門は、徐々に疲れが見え始め、ミスも多くなってきた。
綱海の前にボールが転がったのを見て、潤は叫んだ。
「綱海っ、こっちだ!」
「ああ、行くぜっ!」
綱海からの高いパスを受け、潤はゴールへ向かっていく。
太陽を背景に飛び上がり、オーバーヘッドシュートを決める。炎と共にゴールに向かっていく。…これが潤の必殺技、アトミックフレアだ。
GKは必殺技で止めようとするが、アトミックフレアの勢いは止まらず、そのままシュートを決めた。よし、先制点だ!
…だけど、立向居と綱海、そして観客以外は誰も…喜んではいなかった。
「…み、んな…点を入れたんだから、喜ぶくらいしても…」
「本田…」
「鬼道…?」
「…先ほどの技は、お前の…技なのか?」
「アトミックフレアのこと?…あ、うん…そうだけど…」
「あの技…、エイリア学園の…バーンも使っていたのを、俺たちは見た。…やはり、お前達は何か繋がりがあるのではないか?」
「エイリアの、バーンが…?」
「フッハッハッハ!」
鬼道の言葉に戸惑っていると、GKが突然笑い始めた。…っ、な、なんだ…。
「な、何だよ!」
「やはり潤だったか。…懐かしいな」
「誰だ、よ…私は、何も知らない…何も知らないんだ」
「気が動転しているのか?…まあいい。…いい加減こちらに帰ってきてはどうだ。お前の兄も酷く…」
「止めろ…」
何かを思い出しそう、だった。…だけど、知ってしまったら…怖い。
感情が爆発しそうになり、胸が苦しくなる。
立向居が駆け寄ってきたが、それに礼を言うことも出来ずに…潤はただ、イプシロンの選手たちを見た。
…なんで、見覚えがあるの?…私は、こいつらと初対面の筈だ…。なんで私の必殺技は、私の首を絞めたバーンと一緒なんだ、なんでみんなは私を疑うんだ?私は、陽花戸の生徒だ、立向居が証明してくれる、私は、私は…っ!
頭がいっぱいいっぱいになった潤は、ついにグラウンドに倒れた。
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