「南雲晴矢、本当に何も知らないんだな?」
「…うん、そんな人知らない。本当に知らないんだ、自分でもわけが分からなくて混乱していて…」
「そうか。しつこく聞いてしまって悪かった」


翌朝。退院の手続きを済ませると、ロビーで鬼道が待っていた。病院からキャラバンに向かう途中、昨日起こったことを全て聞いた。

吹雪と土門が市街地で出会ったという「南雲晴矢」という少年。…潤の首を絞めてきた、バーンという少年だ。
彼は、自分が雷門イレブンの探していた炎のストライカーではないのか?と売り込みに来たらしい。

立向居と潤が来るまでは、雷門イレブンに入るためのテストを受ける気満々だったのだが、潤を見た瞬間、笑顔が消えた。
そして突然、首を絞めた。


「(本当に…わけがわからない)」


自分を知っているような態度、自分は彼らのことを知らない。…だけど、何故だか…、全否定は出来そうになかった。何故かはわからないけど。


「とりあえず、体調はもう大丈夫なんだな?」
「あ、ああ…今朝診察を受けたけど、もう問題ないって」
「そうか、それなら良かった。それと、立向居のことだが…」
「うん、吹雪から聞いたよ。…悪いことしちゃったな」
「…立向居はキャラバンの中にいる。行って来い」


病院のすぐ近くにキャラバンを停めていてくれたみたいで、結構早く目的地に着いた。
みんなは近くにある公園で練習をしているらしい、立向居は一人キャラバンに閉じこもっているらしいが。

練習へ向かう鬼道と分かれて、潤はキャラバンの中に入った。



「立向居?」

ぐるりとキャラバンの中を見回すと、一番後ろの広い席に毛布の塊があった。苦笑しつつ、後ろまで向かう。
毛布を剥ぐと、眠っている立向居の姿。その頬には、涙の跡がある。

寝ている彼の隣に腰掛けると、その頭を優しく撫でる。
すると、彼が何かを両手で包んでいた。…見ると、潤と色違いのストラップが付いた携帯だった。それを見た途端、なんともいえない気持ちがこみ上げてくる。


「ごめんね、立向居。…ごめん」
「んっ…」

立向居の身体が少しだけ動いた。そして、ゆっくりと目を開く。
最初は寝ぼけていたようで、何度か目をパチパチとさせていたのだが、潤の姿を確認した途端、バッと起き上がった。


「潤、先輩…!」
「立向居」
「あ、あの…先輩、俺…」
「ごめんね、立向居」
「…え」
「私が、無理矢理連れ出したから、立向居が気に病むことなんて何も無いんだよ」
「で、でも…俺」
「…本当に、ごめん」
「え、え…潤、先輩?」


いつの間にか、涙が頬をつたっていた。急に泣き始めた潤を見て、立向居はぎょっと目を見開く。


「ごめ、な、なんか…急に涙が…」
「せんぱ…」

おろおろと立向居が手を伸ばしてきて、涙を拭う。だけど、そんなのお構いなしに涙は次々と溢れてきた。…人前で泣くのはいつぶりだろう。
色んなことがありすぎた。…正直に言うと、怖いのだ。分からない事だらけで、頭の中がめちゃくちゃだった。


「立向居、どうしよう…」
「……」
「怖いよ…」
「っ!」


すると、立向居に腕を引かれて抱きしめられる。毎日練習を欠かさずにしている彼の胸は逞しい。今まで彼に、こんな風に抱きしめられたことが無いため、少しだけ驚いた。

立向居は何も言わずに潤をぎゅっと抱きしめ続ける。言葉はなくても伝わってくる立向居の気遣いに、潤はまた、涙を流した。


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テーマ「人外ファンタジー」
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