フェリー出航時間まであと少し。潤は立向居と一緒に海の傍にあるベンチに座っていた。
空を見ながら欠伸をすると、立向居がクスリと笑う。

「先輩、眠そうですね」
「いや…昨日の夜さ、筑紫から電話があったんだよ。で、結構長く話しちゃってさ…あはは」
「え…筑紫先輩からですか?…そう、ですか」
「立向居にも今度電話するって言ってたよ」
「…潤先輩、俺…」
「潤さーん!フェリー、そろそろ出航するみたいですよー!」

すると春奈がフェリーから潤たちに手を振る。ひらひらと手をふりかえして自分の荷物を持って立ち上がる。

「あーもうそんな時間か。立向居、話ならフェリー乗ってから聞くよ、だから…」
「もういいです!…俺、先行きますね」
「え、立向居…?…行っちゃった、何だったんだろ」

ズカズカと階段をのぼっていく立向居。ホントどうしたんだろ。何か気に触るようなことした?
…あ、もしかして今から宇宙人を倒さないといけないのに、長電話で夜更かししてしまったから、たるんでるって思われたのかも。
あーあ、先輩なのにこれでは示しがつかない。気をつけないとね。

さてと。
フェリーに乗り込んだはいいけど、これからどうしようか。うーん、とりあえずベンチでも探してゆっくりしますか。
そう決めた潤は、散策を始める。それと同時にフェリーは動き出した。


外の休憩コーナーには先客がいた。壁山と…あと知らない男の子二人。

「壁山、ここ座ってもいいかな?」
「あ、本田さん!もちろんッス!隣どうぞ!」
「ありがとう、そこのお二人さんも…構わないかな?」
「ええ構いませんよ」
「別に、好きにすればいいじゃん」
「あはは、じゃあお言葉に甘えて」

壁山の隣に座って、昨日吹雪と一緒に行ったコンビニの袋を広げる。すると、メガネの男の子がバッと立ち上がった。…ん?

「本田さん…、そ…それは…!」
「え…どれ?」
「そ、それですよ!そのふたりはペロキュアの西園うみちゃんのデフォルメフィギュア付きコーラのことですよお!!」
「え…ふたりは、ペ、ペロ?」
「ふたりはペロキュアの西園うみちゃんですっ!」
「は、はあ」
「本田さん、目金先輩はそのコーラに付いているフィギュアのことを話してるんッスよ」
「あ…これ?」
「そう!それです!限定で販売されていると聞いていたのですが、まさかこんな所でめぐりあえるなんてっ!」

机をバンバンと何度も叩きながら、目金くんは色々と力説し始めた。このフィギュア、欲しいのかな?
コーラから、そのペロなんちゃらのうみちゃん?の入った袋を剥がし、目金くんに差し出す。

「欲しいならあげるよ、私コーラが欲しかっただけだし」
「ほ、本当ですか?ありがとうございます!」

目金は潤の手から袋を受け取ると、丁寧に開封した。出てきたのは、小さな女の子のマスコット人形だった。
それを見た途端、目金くんの表情はうっとりとしたものに変わる。

「ああ、とても可愛いですようみちゃん…、最高です…最高です!」
「あはは…喜んでくれたのかな?」
「ま、まあ…そうだと思うッス」
「…なあ、これ一人で食うのか?」

声のしたほうを向くと、もう一人の男の子が袋を凝視していた。…あー、確かに買いすぎたからね。吹雪にも驚かれたし。
潤が袋を逆さにすると、袋の中から大量のお菓子が出てきた。

「お菓子パーティしようか、好きなの食べていいよ」
「本当ッスか?」
「うん、どうぞどうぞ。ほら、君も…えっと…」
「…木暮。木暮夕弥」
「うん、木暮くんもたくさん食べていいよ」
「…ありがとうございます」

木暮も一年なのかな?チョコレートの銀紙を剥がして口に含む姿がとても可愛らしい。
あー、やっぱり後輩好きだな、自分。…後輩といえば、立向居に一言謝るべきだよね。…また後で話してみよう。…あ、そうだ。

「ねえ、目金もお菓子一緒に食べようよ」
「待ってください本田さん!せっかくなのでうみちゃんにもこの美しい海を見せてあげようと思って…ほら、うみちゃん、美しい海です。ああーっ!珊瑚もありますよお!」
「目金さんそんなに乗り出したら危ないッスよ…」
「って、うわあああっ!」
「目金っ!」

潤はかけだし、目金のシャツを掴む。ギリギリの所で海に落ちなくて済んだ。
後ろから壁山と木暮が引っ張ってくれたおかげで、目金を再びフェリーに乗せることが出来た。ふう、良かった。
すると目金は再び手すりから身を乗り出す。

「あああああっ!」
「なんだよもう!また落ちるなんてことしないで…」
「うみちゃんが…うみちゃんがあんな所に…!」

目金が真っ青な顔で下を指差す。目金の指差すほうを見ると。潤が先ほどあげたうみちゃんが沈んでいる所が。

「あきらめたほうがいいッスよ…」
「ですが、うみちゃんがっ!」
「…あー…じゃあ私が取ってきてあげるよ。もう陸はすぐそこだし、これくらいの距離だったら泳げるからさ」
「い、いいんですか?」
「もう。後でお菓子奢ってよね」
「ありがとうございます!」

苦笑しながら潤はジャージを椅子にかけて、靴を脱ぐ。メガネをケースに入れてから、海に飛び込んだ。

「大丈夫?」
「ぷはあっ!うん、大丈夫。うみちゃんも捕獲。フィギュア片手に戻れないから、そっちに投げるよ?しっかりキャッチしてね!」
「えええっ、うみちゃんを投げるのですか?」
「ほら、早く構えて!いくよ!」

フェリーに向かって投げられたうみちゃんは、目金がキャッチした。とりあえずこれで自分は陸に…

「っ、あ…」
「どうしたんスか?」
「な…んか、頭がいた…ううっ」
「本田さんっ!?」

あれ、や、やばい…意識が…嘘でしょ、水の中で…そん、な…

「潤先輩っ!」

薄れ行く意識の中で、最後に見たのはフェリーから身を乗り出す立向居の姿だった。


20130527 修正

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