「あ、潤さん吹雪くんおかえり!」

吹雪と二人でキャラバンまで戻ると、夕食の準備をしているマネージャーたちがいた。黒い髪の女の子に手招かれて、潤はそちらへと向かう。

「あ、じゃあ潤さん。僕ご飯まで少し寝ようと思うからキャラバンに戻るね」
「そう?じゃあまた後で」

吹雪に別れをつげ、今度こそマネージャーたちに近づく。すると音無が何かを差し出してきた。
白い小皿の中に、シチューが入っている。美味しそうなにおいだ。先ほど肉まんとピザまんを食べたばかりなのに、お腹が鳴った。

「味見、どうぞ!」
「ありがとう。…んー、美味しい」
「本当ですか?嬉しいです!味付け、私がしたんですよ!」
「そうか…上手いね」
「えへへっ、ありがとうございます!」

音無は人懐っこい子だよね。鬼道の妹かー…、あまり似てないよね。あ、でもまだ知り合ったばかりだから似てるところが見えていないだけかもしれないよね。
すると先ほど潤を呼んだ、マネージャーの女の子がクスクスと笑い始める。ん?

「音無さんってば、潤さんにすっかり懐いちゃったね」
「潤さんと仲良くしたいんですもん!これから色々お話しましょうね?」
「あはは、ありがとう音無」
「春奈って呼んでください!潤さん!」
「え、あ…じゃあ春奈?」
「はい、なんでしょう?」
「いや…特に用事はないんだけどね」
「ええーそんなー」
「音無さん、いいから手を動かしなさい?」

今までずっと黙って成り行きを見守っていた長い髪の女の子が呆れたように言う。その手には…米?

「お米なんて持ってどうしたの?」
「あなた、何を言ってるの?おにぎりを握っているのがわからないのかしら?」
「おにぎり?」

彼女の手の中にあるのは、どう考えてもおにぎりには見えなかった。
潤が首を傾げていると、黒髪の子が少しだけ焦ったように両手を合わせる。

「そ、そうだ!潤さんもおにぎり一緒に作らない?練習で疲れてると思うけど、みんなで作ったらきっと楽しいと思うわ!」
「うーんそうだね、手伝うよ」
「じゃあ手を洗わなきゃね!そこの水道で洗って大丈夫よ?」
「分かった」

うーん、話題を変えられたな。もしかして、あの長い髪の子は料理ができないのかな?
しっかり手を洗って戻ると、黒髪の女の子からエプロンを手渡された。

「そういえば潤さんとこうやって話すのは初めてね。じゃあもう一度自己紹介するね?私は木野秋、よろしくね?」
「私は雷門夏未、よろしく」
「あ、じゃあ本田潤です。よろしくね」
「音無春奈です!」
「知ってる」
「知ってるなんて…!もう潤さんってば、照れちゃいますよー!」
「?」

春奈のよく分からないテンションについていけず、首を傾げる。あれ、何度目?
まあいいや、木野に雷門。うん、よし覚えた。これでキャラバンに乗っている女の子は全員覚えた…のかな?
うん、頑張った自分。すごく頑張った。あれ、それより…雷門って、鬼道の言ってた子だよね。塩をこぼしたとかいう。

「塩こぼしたの?」
「な、なんであなたがその話を知っているの?」
「鬼道に聞いたんだ」
「鬼道くんったら…余計なことを…!」
「雷門ってチームの名前だよね?偶然?」
「夏未さんのお父さんは雷門中学の理事長なのよ」
「あ、そういうわけか」
「もう!無駄話はやめよ!早くおにぎりを作りましょう!」

恥ずかしがっている雷門は、釜に炊いてあった米を乱暴にしゃもじですくい片手に乗せる。あ…

「きゃあ、熱っ!」
「夏未さん!大丈夫?」

ぼたぼたとお米が地面に落ちる。それを拾おうとする雷門の手を掴んで、水道まで導く。蛇口をひねって水を出すと、痛んだのか少しだけ悲鳴をあげる。

「春奈、火傷のクスリはある?」
「はい!取ってきます!」
「や、火傷なんて…そこまで酷くないわ!」
「念には念をだよ。そのまま春奈が来るまで水で冷やしてて」
「…わ、わかったわ」

雷門の手をはなして潤はしゃがみこみ、先ほどこぼした米を拾い、ゴミ箱へと入れる。
すると春奈が救急箱を抱えて帰ってきたので、手を洗い雷門の治療を始めた。

「手際がいいですね、潤さん…」
「本当ね…」
「よく怪我する兄を持つと自然とこうなるんだ」
「お兄さんがいるんですね」
「うん、同い年でサッカーをやってるんだ。ぶっきらぼうだけど、優しくて…、やさしく、て?」

まただ。ここまでくると、何だか気持ちが悪い。
自分は一体何を思い出しているのだろう。兄って、自分の兄は同い年でもないし、そりゃあ優しいけどぶっきらぼうでもなくて。
兄って…何?…思ったんだけど、もしかして私の記憶…元に戻りかけているのかな?

「潤さん?」
「あ、ごめんごめん。なんでもないよ」

元に戻りかけているという事は、事故のことについても思い出せるのかな?
いや、でも自分が作り出した妄想という可能性だってあるのだ。…やはり、気にしないほうがいいのかもしれない。

「あの…本田さん、ありがとう。あなたの行動が早かったお陰で、大事に至らなくてすみそうだわ」
「ああ、気にしないで」
「てきぱき動く潤さん、本当にかっこよかったですよ!」

おにぎり作りを再開しながら(雷門は見学ね)、音無が目を輝かせて潤を見る。…?なんだかこの目、見たことがあるぞ?
なんて思っていたら、腰に衝撃が走る。…はあ。

「潤先輩、何処にいるのかと思って探しましたよ!いなくなったのかと思って、俺…心配しました!」
「君は寝ていたからね、立向居。というか苦しい」
「しかも吹雪さんとデートしたんですよね?…俺だって先輩とデートしたかったです!」
「デートじゃないし。というか苦しい」
「ふふっ、潤ちゃんはモテモテね」

木野がおっとりと笑いながら言う。いやいやいや、タスケテ。立向居の力がだんだんと強くなっていく。や、やめて…何か出る。肉まんとか出るからやめて!マジで!



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