夕方になってきたので、今夜の夜食を買いにフェリー乗り場の近くにコンビニか何かないかなーなんて思いキャラバンから出てみることにしようと思ったら声をかけられた。

「夜食買いに行くの?」
「あ、吹雪。うんそうだよ」
「僕も一緒に行っていいかな?」
「どうぞご自由に」
「ふふっ、じゃあ決まりだね」
「というか起きてたんだね。みんな練習疲れて眠っちゃってるのだとばかり」
「僕はただ目を閉じてただけだよ。でも他の皆は寝てるね」

キャラバンの中を見渡すと、みんな目を閉じていた。マネージャーの子たちと鬼道だけがいない。音無たちは今夜の夕飯をキャラバンの裏で作っていて、鬼道は知らん。まあとりあえず皆を起こさないようにキャラバンを出ると鬼道がGマートの袋を提げてこちらへと向かっているのが見えた。

「あれ、鬼道コンビニ行ってたんだ」
「春奈に頼まれてな。…雷門が料理に使うはずだった塩を全てこぼして、俺が近くの店まで買いに行ったんだ」
「あ、あはは…雷門さん、すごいね」
「(雷門さんって誰だっけ。というか雷門って雷門イレブンと一緒じゃん)」
「お前たちはコンビニへ向かうのか?」
「うん」
「ここからかなり距離があるぞ?」
「そうなんだ…。どうする潤さん」
「え、行くけど。吹雪はどうする?なんなら私が買ってきてあげるけど…」
「ううん、僕も行くよ。それより鬼道くん、はやく行かないと音無さんたち困るんじゃない?」
「そうだったな、じゃあ俺はここで」
「ばいばーい」

鬼道と分かれ、海岸沿いの道を吹雪と二人で歩く。吹雪は自分より背が低いんだなー、とか暑いのにマフラーってすごいなーとか思いながら歩いていると、吹雪は困ったように笑う。なんだか私吹雪を困らせてばかりだな。よし、じゃあ聞いてみようそうしよう。

「暑くない?」
「え…、ああ…これ?」

潤の問いに、吹雪は視線を下に向ける。そして右手でマフラーを握り、一度だけ目を閉じると、顔をあげてすぐに私にほほ笑んだ。一連の動作を潤は少し疑問に思ったが、まあ気にしないことにしよう。

「これはね、大切なものなんだ。…弟の、大切な…」
「……そっか」
「…前から思っていたんだけど、潤さんは風丸くんと似てるね」
「かぜまるくん?誰かなそれ」
「キャラバンの仲間だよ。陽花戸で降りちゃったけどね」
「(鬼道が言ってた円堂と仲が良かったって人か)…何が似てるの?」
「髪型。左目を隠しているところとか、そっくりだよ」
「……へえ、…そっか」

かぜまるくんとやらは何故隠してたんだろう。自分みたいに何かあったのかな。…いや、まあいいや。
潤が黙ると、吹雪くんは何かを察したのかその話題には一切触れなくなった。そういえば吹雪くんも何かしら抱えているんだったね、相手に触れて欲しくない話題には敏感なのかもしれない、もちろん自分のことも他人のことも。

「僕ね、弟がいたんだ」
「…そうなんだ」

いた。過去形ということは、もういないのだろう。言葉を待っていると、吹雪くんは少しだけ震えながら話しはじめた。

「でも、昔雪崩の事故で亡くなった。母さんも、父さんも」
「……」
「でもいつからかな、弟…アツヤの人格が僕の中に現れたんだ」

人格が現れる…?よく分からないな…ジキル博士とハイド氏みたいな感じ?二重人格?…でも、弟の人格が現れるって…、どういうことなの?でも、多分この話は本当。吹雪はとても真面目に話すし、鬼道の言葉だって本気だった。

「試合中とかに、現れるんだ…アツヤの方が。このことはみんな知ってるから…知らない潤さんが見たら驚くかなって思ったから言ったんだ。それだけだよ」
「そう…」
「なんか突然話してごめんね」
「ううん、それは別にいいけど…」

聞きたいことはあるけど、やっぱり彼としては触れて欲しくない話題…なのだろう。自分だって目のことに触れて欲しくないから、「こういう」話題には敏感なのだ。聞かないでおこう。

「あのね…潤さんは、FWだよね?」
「うん、まあ一応」
「あのね、一つ質問なんだけど…シュートを決めなければ皆から必要とされない、のかな」
「え…?」
「……」

吹雪は泣きそうだった。まだ彼と知り合って日数も経っていない。吹雪の言う「アツヤの人格」だって見たことない。彼がどんな経験をしたのか、どんな気持ちなのかだって分からない。だけど、彼が何か重く…苦しいものを抱えていることだけはなんとなく感じとることができた。

「…シュート決められなかったり、ってていうことはもちろんあるよ。…それでちょっとだけ落ち込むんだけど、その度に戸田が…あ、陽花戸のキャプテンね。休んで何か食えって」
「何か…食べろ?」
「みんなも声をかけてくれるんだ。そしたら、元気だけはたまってく」
「……それで、シュートできるようになるの?」
「できない。できないけど、皆から必要とされていないわけじゃないよ。みんな声をかけてくれるからね」
「みんなが…声を」
「うん。みんなが声をね、それをよく聞き取ることが大切だと私は思ってる」
「………」
「…あー、それにしてもお腹減ったね」
「そう…だね、あはは…僕なんだかお腹鳴りそう」
「でももうすぐ夜ご飯だからなー、肉まんくらいなら大丈夫かな?」
「一つだけだよ?」
「分かってるよー、あGマート発見!」

潤が吹雪の手を引いて駆け出す。最初は驚いた吹雪だったけど、少しだけ笑顔になって潤について走った。
コンビニで夜食を買った二人は、レジの横に置いてあった温かい物のコーナーを見る。

「無難に肉まんでもいいけど、ピザまんも捨てがたいですな」
「じゃあ僕と半分こしない?僕が肉まん買うから、潤さんがピザまんを買う。そうしたら二つの味が楽しめるよ」
「いいの?」
「うん、もちろん」

吹雪の笑顔。少しだけ自分に似てる…と潤は思った。だけど、自分も吹雪も笑う。笑う…笑うのだ。


20130527 修正
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