次の日、フェリー乗り場に着いた雷門イレブン一行は駐車場で一晩過ごすことになった。吉良監督は先にフェリーに乗って情報収集をしてくる、とのことで一足先に沖縄に向かったらしい。

何故沖縄と思い鬼道に聞いたら「炎のストライカー」とやらがいるらしい、沖縄に。しかもその「炎のストライカー」は雷門のごうなんとかくんかもしれないとのこと。ごうなんとかくんは、奈良でキャラバンを降りたと聞いた。彼の話題が出る度に、雷門のみんなの表情が明るくなるところからして、相当頼りになる人なんだなと思った。
にしても、「炎のストライカー」か。吹雪は「熊殺し」とか呼ばれてるみたいだし、なんか通り名ってかっこいいよね。自分にも何か良い通り名がつかないものか。まあ頑張ってれば誰か付けてくれるかもね。楽しみ。

「潤先輩っ!今時間ありますか?」
「あら立向居。どうしたの?」
「あのっ…先輩に、マジン・ザ・ハンドを…見てもらいたくて」
「あー…あの頑張って練習してた技?」
「は、はいっ!でも、あの、その…お時間があったら…ですけど…」

そう言いながら段々と俯いていく後輩の頭を撫でる。今は自主練だし別にいいよ、と言うと立向居の表情がパァっと明るくなった。

「あの…先輩、ボール蹴ってもらえますか?」
「ん、いいよ。ボール貸してみ」
「ありがとうございますっ!じゃあ俺、あの網の前で立ってますね!」

駐車場の隅の小さな砂場で雷門は練習していたので、ゴールなんてもちろん無い。キャラバンに積んであったネットと棒で作った簡易なゴール。ゴールしてふっ飛ばさないかが少し心配だった。まあ立向居が受け止めるだろうし、いいか。
潤がボールを蹴ると、立向居は背中を見せるように上半身を右に大きくひねり、胸に右手を当て、振り返り右掌を突き出した。するとボールは立向居の手に収まっていた。おおーかっこいい技。立向居の後ろにマジンさんが見えた気がするよ。潤はゆっくり歩いて立向居のもとまで行き、ふわふわの栗毛をこれでもかという程撫でる。

「うわわ、先輩っ」
「すごいね、頑張ったね立向居」
「雷門の皆さんのお陰です。…それに、先輩と一緒にサッカーしたかったし…あ」
「ん?」
「お、俺…なんてことを…!すっかり忘れてました!」

立向居はそう言うと持っていたサッカーボールを地面に置き、深々と頭を下げた。いきなりどうしたの、と聞くと何故だか焦り始める立向居。何故。

「すみません!俺、先輩にクッキー作ってもらったのに、感想言ってなくて…!」
「なんだ、そんなこと」
「そ、そんなことじゃありません!俺にとっては大事件です!」
「…そう?で、どうだった?味」
「あ、あのあの…とっても美味しかったですーあの…良かったら、また作ってもらえますか?」
「あはは、褒めすぎ。でもありがとう、嬉しい。あれで良かったらいつでも作ってあげるよ」
「あ、ありがとうございます!俺、嬉しいですっ!」
「得意なんだ。昔よくね、幼馴染の子に作ってあげてたんだ。あの子甘いもの好きだか、ら…」
「?先輩?」

あれ、まただ。
自分には記憶が無い。幼馴染なんていない。古い付き合いなのは、戸田と筑紫だけど…あの二人は幼馴染というほど一緒にいたわけじゃないし、…じゃあ幼馴染って何?
記憶を無くす前の話?それとも自分の妄想?…ううーん、分からない。まあ考えても仕方ない。

「ごめんごめん。なんでもないよ」
「そうですか?何かあったら言ってくださいね?俺、先輩の力になりたいんです!」
「あはは、ありが「アンタすごいな!」?」

声のした方を見ると、雷門の女の子選手がいた。青い髪の子とピンクの髪の子。名前は…まあみなさん予想の通り知らない。

「あー、良かったね立向居」
「ちゃうわ!アンタやアンタ!えーっと、潤…やったっけ?」
「え、私?」
「立向居のマジン・ザ・ハンドもすごいけどね」
「あ、ありがとうございます塔子さん!」
「さっきのシュート、すごい威力やったな!ウチもFWなんやけど、悔しいけどアンタのシュートの方がすごいわ!」
「あはは…ありがとう」

えーっと、名前…教えて欲しいなあ…。なんとなく立向居を見ると、彼は視線の意味に気づいてくれたみたいでコクリと頷いてくれた。ありがとう可愛い後輩よ。

「あ、先輩。こちらが財前塔子さんで、こちらが浦部リカさんです」
「なんや、別に自己紹介何回もせんでええやろ。ま、ええわ。リカって呼んでや」
「あたしは塔子でいいよ」
「えーっと、じゃあ私も名前でいいよ。リカに、塔子」
「女の選手同士、仲良くしような!」

塔子に手を差し出され、握るとリカがニヤニヤしながらこちらを見てきた。…な、何。

「にしても〜…立向居と潤はホンマ、仲ええなあ」
「あ、え、あ…ちょ、リカさんっ!」
「まあ仲は良いよ。陽花戸でも立向居が入部した時から仲良かったもんね」
「先輩後輩関係っていいな!」
「ちゃうわ!ホンマ鈍感やな塔子。つーか潤も鈍感かいっ」
「ちょ、リカさん!これ以上は止めてくださいよお!」
「…しゃーないな。にしても、大変やなあ立向居。コレは…」
「いや、あの…まあ」
「ならウチが恋のキューピットになってやるわ!頑張り!」
「恋のキューピット?何の話?」
「うわーっ!潤先輩には関係の無い話ですっ!」
「よし!じゃあ今から立向居はウチと作戦会議や!」
「ええー!?」
「何の作戦か分からないけど…、じゃああたしたちは練習しないか?潤」
「いいよー塔子」

ズルズルと引きづられていく立向居を見送る。
まあ話の流れからして何となくは分かるけどさ、立向居の自分への態度はどう考えたって「先輩への敬愛」だと思うよ。色恋なんてありえないって。リカは恋とか愛とかが好きな子なんだね。まあそういうのも悪くないよね、素敵なことだと思うよ。誰かを好きになるって事は。でもまだ中学生だし、考えられないなぁ…。まあ当分先の話だよね。



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