少し、昔の話をしようか。
私の目の色は金色だ。濁りのない美しい色。だけどそれは右目だけだった。
左目は黒。何も映さない、濁った色。光なんてない、ただの暗闇。
何故このように左右で色が違うのか分からなかった。兄に聞いたら、事故で光を失ってしまったからだと言う。
少し話が変わるが、私は9歳以前の記憶が無い。記憶が無いのもその事故のせいだと兄は私に教えてくれた。私の本当の親はその事故で亡くなってしまい、私は兄に引き取られたらしい。それから私は5年間、兄と二人で暮らしていた。兄は私の家族に全く関係のない人物だったので、私の過去のことなんて知らない。私のものなのに、何も知らない空白の9年。どういう生活をしていたのか、気にはなったけど考えないようにした。私は「これから」を大切にしようと思ったのだ。

兄の家がある福岡に引き取られてから、学校に通うことになった。
だけど、その学校で気味悪がられた。理由は私の目が他の子と違うから。でもこればかりはどうしようもない。だけど、嫌われるのは嫌だった。だから私は次の日から前髪で左目を隠した。眼鏡で隠した。だけど最初の印象は崩れないようで…。だから私は笑うことにした。笑っていたら、両目を瞑っていたら色がわからないから。すると周りの子たちは私に段々気を許した。笑っていたら、友達ができた。
これがいつの間にか癖になってしまって、私は笑う。つまらないのに笑う。怒りたいのに笑う。困った時も笑う。可笑しいでしょ?でもそうしないと周りの人から気味悪がられるのだ。人の目を気にして生きる。嫌だった、でも仕方なかった。嫌われるのは嫌だから。私はずっと笑っていた。それが普通になっていた。


一年後。私は一人公園でサッカーボールを蹴っていた。この時間がとても好きだった。
もしかしたら、記憶を失う前もサッカーをやっていたのかもしれない。自分で言うのもなんだが、とても上手にボールを扱うことができた。
すると公園に二人の男の子がやってきた。バンダナを巻いた子に釣り目の子。…同じクラスの男子だった。名前は知らないけど。

「本田もサッカーやるのか?」
「あ、うん!サッカー楽しいよね」

ニコニコと笑顔を貼り付ける。こうすれば、みんな良い印象をもってくれるから。騙してるようで悪いけど、嫌われたくないのだ。
暫くサッカーの話をしていると、釣り目の子の方が「楽しい?」と聞いてきた。

「うん、サッカー楽しいよ!とっても!」
「いや…そうじゃなくてさ、作り笑いしてて楽しいの?」
「え…?」
「お、おい筑紫!」
「…君っていつも作り笑いしてるよね」
「……あはは、…すごいね君」

筑紫くんの言葉に驚いた。だって見破ったのは彼が初めてだったから。誰も気づかないと思っていたけど、気づく人もいるんだな。

「そうだよ。作り笑いしてる。だってそうしないと嫌われるから。君たちだって知ってるよね、私の目が他の人と違っておかしいこと。だから隠してるの文句ある?」
「…君本当の友達いないでしょ」
「見た目で判断するような友達なんかいらないよ」
「でも君は人の目を気にしてるんでしょ?そいつらと何が違うの」
「……じゃあ君にはわかるの、私の気持ちが!」

何なんだ、こいつは。初対面でいきなり失礼じゃないのか?キッと筑紫を睨むと、あっはっはと笑われた。
ポカンとしていると、筑紫は笑いながら私の頭に手を置いた。

「怒ることできるじゃん」
「……」

言われて気づく。そういえば久しぶりに怒った気がする。

「戸田がね、いつも気にしてたんだ。あの子は楽しそうに笑わないよなって」
「ち、筑紫!」
「僕もね、同じことを思ってたんだ。理由も分かってたよ。…学校で見る君は、とても楽しくなさそうだった。だけど、ある日の帰り道、ここでサッカーをしている君を見た。…今まで見たことない顔で笑っていた」
「……」
「それでね、僕たちは君と友達になりたいと思ったんだ。だけど、上辺だけの友達は嫌だって思ったんだ。だからわざと君を怒らせたんだ。…ごめんね」
「…でも、私気味悪いでしょ?」

私は眼鏡を外し、前髪をあげた。彼らの目にこの光の無い目はどのように映るのだろう。
すると筑紫くんは馬鹿だね君、と笑う。

「僕たちをそいつらと一緒にしないでよ」
「筑紫くん…」
「あのさ、本田。俺たちはサッカーをしているお前に惹かれたんだ。…それじゃあ駄目なのか?友達になれないのか?」
「……戸田、くん」

こんなことを言われたのは、初めてだった。とても嬉しかった。
すると涙が溢れてきた。それを拭って、私は笑顔で…いつもの笑顔じゃない、本当の笑顔で二人にお礼を言った。


それから私は二人と友達になった。だけどまだ怖い。この目のことを知られるのは、怖い。だから前髪で目を隠し、笑顔という壁で自分を守る。
だけど以前と一つだけ違うことがあった。私は怒る時には怒る、悲しい時には悲しむ、つまらないときははぶてる、そして笑いたい時には偽りの笑顔ではない本当の笑顔で笑えるようになった。

中学に入って二人のような友達も何人かできた、自分にとって信用できる人も増えた。だけど、この目のことは知られたくなかった。この目は私にとってトラウマになっていたから。

20130527 修正
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