キャラバンが陽花戸中を経って10分ほど経った時だった。マネージャーの眼鏡の女の子が立ち上がり、みなさーん!と声をかける。なんだなんだと雷門イレブンの皆は身を乗り出していた。
そわそわしていた立向居も首を傾げて隣に座っている潤に「何ですかね?」と聞く。「さあ」と返して視線だけをマネージャーの子に向けた。


「ここで、新しい仲間のお二人に改めて自己紹介をしてもらおうと思います!」


なんとまあ。自分には関係のないことだと思っていたのにな、なんて潤は苦笑する。先にマネージャーの子に名指しされたのは立向居だった。彼が裏返った声で返事をすると、雷門のみんなから笑いが取れた。よかったね立向居、幸先いいよ。


「それでは立向居くん、自己紹介を!」
「あ、あ…え、えっと…立向居勇気ですっ!ポジションはGKで、学年は一年生です!雷門のみなさんとサッカーができるなんて光栄です!よ、よろしくお願いします!」

それにしても、このマネージャーの子はテンションが高いね。名前は…なんだったっけ。あーれ?あー…人の名前を覚えるのって大変だよね。あはは…。陽花戸サッカー部に入部した時も酷かった。戸田や筑紫は小学校の時から一緒だったからアレだけど、その他はもう悲惨だった。何がって名前を覚えるのが。でも立向居は名前のインパクトが強かったからすぐに覚えたんだけどね。それに雷門の人、誰も覚えていないわけじゃないんだよ。鬼道、円堂に吉良監督に吹雪だっけ?は覚えてる。あれ、そういえば雷門に松野くんっていたよね。FF決勝をチラっと見た時に映ってた帽子の子。目立つから気になったんだよね。あとあの帽子どこで買ったんだろうって何だか気になって、立向居に松野って名前だって聞いて…。そういえば松野くんはいるのかな?いやいや、目立つからすぐに分かるはずだよね、じゃあ挨拶の時は帽子取ってたのかな?「潤先輩!」あら。

立向居の声で我に返る。瞬きを一回だけして、立向居を、そしてマネージャーの子を見る。

「先輩どうかしたんですか?」
「あ…いや、何でもないよ。それより何かな?」
「次、本田さんの番ですよ!」

マネージャーの子がニコリと笑う。あぁ、そっか今自己紹介(潤にとっては3回目)してたんだっけ。
潤は右手をあげてひらひらと横に振る。

「本田潤、FWで学年は二年。これからよろしくー」

とりあえず立向居が言ったことをそのまま言うと、マネージャーの子がじゃあ続けていきますー!と言う。…待て、続けていきますってどういう事なの。
潤が眉を顰めるとマネージャーの子は大丈夫です大丈夫!と言いながら笑う。いや、どういう事なの。

「じゃあ…本田さんの誕生日は?」
「あ、俺知ってます!○月×日です!」

…なんで立向居が答えるんだ。隣の立向居をチラリと見たが、彼はこちらに気づいていなかった。心なしか瞳が輝いているように見えるのは気のせいなのかな。
それからマネージャーの子が質問をするたびに立向居がすぐさま答える。最初は戸惑っていたマネージャーの子だったけど、次第に楽しそうな表情になっていき、キャラバンの中は潤のクイズ大会のようになっていた。ただし参加者は立向居のみ。なんだこれ。みんな絶対つまらないよ、なんて思いながらチラリと辺りを見ると、みんな楽しそうに笑っている…?
潤が頭を抱えていると、クイズ大会が終わっていた…いや違う二人が黙っているだけだ。するといきなりマネージャーの子が潤にぐいっと顔を近づけてきた。ここ車内だから立ち歩いたら危ないよーと言おうとしたが、彼女の「で、どうなんですか?」という声に阻まれた。
そうか。立向居が答えず黙っているということは、彼には分からない質問がされたという事で…再びチラリと立向居を見ると、真剣な表情で潤のことを見ていた。…な、何なのさ。

「何かな…立向居」
「で、ですから…、あの」
「潤さんにはズバリ、彼氏または好きな人はいますか?」
「…なんだ、そういうこと」

そりゃあ立向居は答えられないよね。いや、でもこの前までの質問に答えられたのもある意味予想外というかありえないというか。
そういえばマネージャーの子の呼び方が変わってる。…まぁ苗字より名前の方が呼ばれなれてるし別にいいけど。

「で、どうなんですか?」
「……」
「ええっ?先輩…い、いいいいるんですか?」
「(何も言ってないじゃないか)」
「そういえば私、気になってたんですよ!」

マネージャーの子が何かを思い出したかのように手を叩く。

「陽花戸のキャプテンさんと、とても仲がよさそうに見えましたが!」
「戸田?まぁ仲はいいと思うよ」
「で、実際のところ…どうなんですか?抱きついてたりしてましたよね!」
「(あれは戸田がたまたま近くにいただけで他意はないんだけどなー。いや、まぁ戸田はいい奴だし好きだけど友達としてだからなぁ。さて、どう説明するか)」
「と、戸田先輩と潤先輩は…仲良しで、小学校から一緒で同じクラスで…戸田先輩はキャプテンだから気も許せて、それで、よく相談とかしてて、この前だって…」

おいおいおいおいどうした立向居。そんな自分と戸田の情報なんか誰もいらないよ。それよりなんでそんなに他人の友好関係をつらつらと語れるんだい君は。見てたのかよ。
これ以上放っておくと面倒なことになりそうな気がしたので、とりあえず「そんな人いないよ」とだけ言っておく。
するとマネージャーの子はなんだーと言いながら自分の席に帰っていった。あ、終わった。すると、出発したてのキャラバンの雰囲気に戻った。みんな今までずっと聞いていたのね。
ため息をつきながら背もたれにもたれかかると、立向居が腕に巻きついてきた。

「なんだい立向居くんよ」
「……」

たまにこの子はこうなる時がある。こんな状態になったらすぐには回復しないので、しばらく放っておくことにしよう。
あ、そういえば松野くんの事マネージャーの子に聞けばよかったなー。そういえばといえば、マネージャーの子の名前聞いてなかった。あんなに話したのにな、と思い前の席の鬼道に聞いたら音無春奈という名前らしい。音無ね、オッケー。

「ちなみに俺の妹だ」
「マジ?」

ちなみに松野くんは病院にいるそうだ。残念。いつか会えたら帽子買った場所聞こう。


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