「それじゃあ行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい。体調には気をつけるんですよ?それと、チームの皆さんには迷惑をかけないように、それから…」

それから、それから…いくつも言葉を並べていく兄に苦笑する。いつも以上に過保護だ。…でも、心配してくれてるからこそ言ってくれてるんだよね。兄にありがとう、と言うと珍しく顔を真っ赤にしてそっぽ向いた。その姿がなんだか可愛らしい。

「メールするから」
「…えぇ、僕からもします」
「兄さんこそ体調に気をつけてね?」
「大丈夫ですよ。さぁ、早くいかないと置いていかれますよ?」
「ははっ、じゃあ…行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」

いつもより重いエナメルバッグを肩にかけて、兄に手を振る潤。同じように兄も、優しく笑いながら潤に手を振った。家から数歩出て気づく。そういえば、陽花戸のメンバーに今日出発することを言ってないような…。
携帯を取り出し、とりあえず筑紫にメールをする。何故筑紫にかというと、昨日も彼からメールがきたのでそのままそのメールに返信すれば楽だからだ。

to 筑紫
sb re:
――――――――
雷門に参加するの
で旅立ちます。練
習参加できなくて
ごめんね


「送信っと。やっぱりメールは苦手だなー…」

愚痴りながら携帯を閉じ、ジャージのポケットに入れる。
さてと、向かうは陽花戸中だね。


「潤先輩っ!」

陽花戸中に着いて早々抱きついてくるのは誰だ。まぁ一人しか考えられないけど、と腹の辺りを見るとやはり立向居が引っ付いていた。
彼のふわふわな頭を撫でると、雷門の人たちがぞろぞろと集まってくる。その中に鬼道もいたので、ひらりと手を振るとニヤリと笑われた。そういえば、結局鬼道の言った通りになってしまったな。

「良かった!先輩来てくれたんですね!」
「うん。昨日はごめんね立向居」
「いいえ!俺、先輩が一緒というだけで、すごく嬉しくて…」
「あはは。これからもよろしくね?」

笑いかけると、これまた可愛らしい笑顔で応えてくれる後輩。だけどそろそろ離れてもらわないと、雷門の人たちに挨拶できない。
さりげなく立向居の肩を押すと、ほっぺたを膨らましながらしぶしぶといった感じで潤から離れる。それと同時に近づいてきたのは鬼道だった。

「今度はチームメイトとして…よろしくな?」
「あはは、よろしくね」

差し出された手を握り返すと、潤は雷門イレブンを見渡す。なんだか個性豊かだなぁ。個性豊かといえばうちの陽花戸イレブンもなかなかなんだけどね。その中にはあの吹雪くんもいた。元気になってよかったね。

「本田!」
「あ、円堂くん」
「なんだ。俺のこと知ってたのか?」
「うん、ここのキャプテンでしょ?立向居とかから話は聞いてたよ」
「そっか!あと円堂でいいからな」
「(まぁ最初からそのつもりだけど)うん、じゃあ円堂で。よろしく」

すっかり元気になったらしいキャプテン。明るくて元気そうな男の子だな。
こんなに明るいキャプテンがヘコんでたら、そりゃあ皆もヘコむよ。なんにせよ、元気になってよかった。
円堂が挨拶をすると、他のメンバーも自己紹介を始めてくれた。…でも、そんなに大勢一度には覚えられないよ、あはは。こりゃあ今後の課題の一つですな。

一通り終わったところで潤も、もう一度挨拶をしておくことにする。最初に挨拶した時は緊急事態だったしね。

「改めまして。陽花戸中2年の本田潤です。よろしくお願いします」

ニコリ、と笑うとみんな笑顔で返してくれた。いい人達だなーとニコニコしていると、後ろから頭を叩かれた。い、痛い。
誰だこんなことする奴は、とじと目で後ろを振り返るとそこには陽花戸イレブンが勢ぞろいしていた。ちなみに叩いたのは戸田だ。右手がグーになっている。

「あれ、みんな…練習は?」
「練習は?じゃないだろう!なんで、いきなり…立向居も一言くらい言ってくれれば…」
「す、すみません戸田先輩…」
「筑紫が大慌てで俺たち皆にメールをしてくれたんだ。…全く、こういうのはもっと早くにしてくれないと困る」
「ごめんね戸田」
「…潤、立向居。頑張ってこいよ?」

戸田は相変わらず呆れた顔をしていたけど、他のみんなも同じように呆れた顔をしていたけど。
練習している公園から、学校まで走ってきてくれたんだ。自分たちを送り出すために。…その優しさが、とてもとても嬉しくて思わず戸田に抱きついた。

「う、わ!潤?」
「ありがとっ!」
「…気をつけて行ってこいよ」
「うん!」

潤は戸田から離れると、陽花戸のみんなの顔を一人一人見回す。
立向居も潤の横に立って同じように見回した。

「潤、立向居をしっかり守ってやるんだぞ?」
「松林先輩!俺が潤先輩を守るんです!」
「そうか、頑張れよ立向居」
「はいっ!」
「潤、メールするから返事ちょうだいね?絶対ちょうだいね?」
「ち、筑紫…そんなに念を押さなくても分かってるよ。…多分」
「多分って、ふふっ…まぁ君らしいけど」
「土産買ってこいよ!」
「じゃあ志賀には頭がよくなるようにメガネを買ってきてさしあげようか」
「俺はメガネなくても頭いいから普通の土産で頼む」
「あれ、志賀のこの前のテストの平均よんじゅう…「わーわーわー!」

なんて、いつものように騒いでいると監督がやってきたのでそこで終わり。しばらくこうやって陽花戸の皆と話せないのは少し寂しいなぁと思う。
雷門の人たちに続いて、イナズマキャラバンに乗り込むと、窓越しに戸田たちがやってきた。すると戸田はポケットから何かのケースを取り出し、潤に差し出した。
中には度の入っていないメガネが入っていた。戸田の隣で志賀が「えー、戸田が冗談とかキツいぜー」なんて言っていたが、戸田の真意を知っていた潤はそれをありがたく受け取った。戸田はこちらに近づき、小さな声で話はじめる。

「…必要になるだろう?」
「そうだね。あんまり人には教えたくないし。でもなんでメガネなんて持ってるのさ」
「筑紫の伊達メガネ、しばらく貸してもいいそうだ。あいつも、その…知っているだろう?お前の…目のこと」
「そうだったね」

潤は筑紫に頭を下げると、筑紫は無言で携帯を取り出した。…はいはい、言われなくても返信しますよ。
再び戸田に向き直ると、心配そうな表情で潤を見ていた。

「大丈夫だって」
「…何かあったらいつでも相談してくれ」
「うん、ありがとね」

するとキャラバンにエンジンがかかる。戸田はそっと窓から離れていった。
円堂と話していた立向居が潤の隣までやってきて、戸田たちに手を振る。潤も同じように仲間に手を振り、そしてキャラバンはゆっくりと動き始めた。



20130527 修正
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