今日は特にひどかった。なにがって?……答えたくなんかないね。ただ一つ言えることは、ボクが本気を出したらアイツらなんて皆殺しさ。でもそんなことしたら上が黙っちゃいないからね。何かやらかして昔みたいな環境に戻るのなんてごめんだ。だからボクは今日も良い子ちゃんのフリ。
ただ、今日は酷かった。立ち上がれないくらい、酷かった。あ〜あ、こんなことなら一人くらいヤッちゃえばよかったかな。でもまあこれからアイツらのことボクが上にバラしたらアイツらただじゃ済まないから、まっいいかァ。………あ〜くらくらする、この際バルガでもなんでもいいから、この辺通りかかってくれないかな。




「あ、気が付いたんですね」



次に目を覚ました時、最初に見えたのは見知らぬ女の顔。そしてまあお粗末な布でできた天井。思考停止。そして進行。あれ、ボクなにをしてたんだっけ。
微かに香る下水の臭いに顔を顰めながら、ゆっくりと思い出す。ああ、ボク街で低俗低能な奴らにリンチされたんだった。で、情けないことに気を失ったと。はぁ、とため息を吐いて現状を確認。ここは明らかにファラム王宮にある自分の部屋ではない。そして目の前にいるこのアホそうな女、そしてこの場所。しっかりと自分の状況を理解できたので、再びため息をはくと女が心配そうにこちらを覗き込んできた。


「あの、怪我の具合いかがですか?」
「一応応急手当はしたんですけど、酷いようなら病院に行きますか…?」
「…あの、だいじょうぶ、ですか?」


ぼろっとした身なり、すすけた頬。ひどく汚らしい。おそらくここはファラムのスラム街で、この女は住人なのだろう。汚らしい。なんてやつに。
女の言うことをすべて無視して立ち上がる。身体はまだ痛むけど、きっと明日には治るだろう。ボクはそういう、身体だ。


「あ、あの…まだ動かない方がいいですよ?」


自分の頭に巻かれた薄汚い包帯を取り払い、その場に投げ捨てた。女があっと声を漏らすがそんなのお構いなし。さっと部屋を見回す、布でできた囲いの端でこれまた汚らしい老人が寝ている。その少し横に切れ込みが見えた。きっとそこが出入り口だろう。真っ直ぐそこに向かい外に出る。女はボクの後を追って出てきた。つったく、しつこいな。



「あ、あの「君さァ、汚いからボクに近寄らないでくれない?」


えっ、と女が声を漏らす、困ったように寄せられた眉。だが構うものか。



「君さぁ、スラム街の住民だよね?ファラムのゴミだよね、ボク知ってる」
「……」
「こんなトコにボクを連れてきて。悪い病気がうつったらどうしてくれんのさ」
「病気なんて…」
「助けてくれてありがとう、なんて言われるって期待してたの?…いい迷惑だよホント」
「そんな、こと…」





何も言わなくなった女を無視して、ボクはスラム街を出た。あ〜あ。早く帰って身体洗わないと。





20140206


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