茫然自失する少年の元に、30代程のスーツ姿の男が声をかけた。

困惑し怪しむ少年に、男は、まずはご挨拶と自己紹介からでしたね。と安心させるような笑みを浮かべながら、身分を証明するホログラムを空中に提示した。

目の前の空中には、誠実と潔白を表す青と白い光で、
政府直轄・歴史遡行軍対策本部主任 由陀
と書かれている。

男はホログラムを消し、少年に言い聞かせるように話しだす。歴史修正を目論む《人類の敵》が過去に遡り、歴史を改変してしまった。改変された事により、生まれる筈だった幾千の人間の命が消えた。その中に貴方様の家族も含まれている。
貴方様には、歴史修正を目論む敵に対抗する特別な力がある。それもとても強大な力。歴史が改変され、本来消えるはずだった貴方様自身は、その力が無意識に働き、身を守り、消失を免れた。と少年に言った。



意味がわからなかった。科学技術がいくら進もうとも、過去や未来に行くのは不可能だと言われ続け100年。それが急に、人類は過去に遡る力を得たのだと男は言う。
それでも、現状を少しでも理解しようとする少年に男は続けて話す。


歴史には抑制力なるものがあるのだと。
歴史抑制力とは、ある史実を変えたとしても、抑制力が働き、本来あるべき歴史へと正すように、つじつまを合わせる力。
この力が存在する限り、ある程度の誤差なら大きな流れを変えることはできない。だからこそ、歴史を変えるのは難しい。……ただし、それは逆の事もいえる。

男は少年の前で、一枚の陶器の皿を取り出し地面に落とした。

割れた欠片を一つ拾い、割れる前と全く同じ状態に戻して下さいと少年に渡す。

もちろん出来るわけがない。目に見えない小さな破片や、修正時に生じるヒビはどうしようもない。
完全に元に戻すのは無理だと首をふる。


男は膝立ちし、少年と同じ目線になる。

「貴方様には、特別な力があります。歴史修復主義者に唯一対抗出来る稀有な力が」

敬意を称えるように、少年へと頭を垂らす。

「壊れてしまったモノを修復しても、完全に元の状態には戻らない。それと同じ様に改変してしまった歴史を元に正しても、もしかしたらあなたの家族は元通りには戻らない、かもしれない。戻る、かもしれない。些細な綻びを残して、歴史は変わる。それでも家族を取り戻すための希望を捨てずに、我々と共に戦って頂けませんか?」


男の助けを乞う必死な想いに、こくりと頷き返した。










政府機関の建物の一室の扉を開けたそこは、科学技術の結晶と、古の日本を混ぜたような、神秘的で未来的な矛盾した空間だった。

ここは室内のはずだ。なのに見上げた先には宇宙空間のような星空がどこまでも続いている。視線を徐々に下げていくと、昼間のような明るさになり、滝や池、森林、神社、花々、などの自然が見えた。足元は水面になっており、歩くたびに足元に水紋と蓮の花が広がり、鈴のような音が聞こえた。おそらくすべてホログラムなのだろう。

景色に見とれていると、案内人のロボットのような狐が、水面に次々に現れる円状の光の上を進み、着いて来いと振り返る。


導かれた先は、無機質で機械だらけの円錐型の空間だった。広さは学校の体育館程だろうか。この場所には老若男女様々な人がいた。自分よりも小さな女の子もいる。男子学生や主婦、杖をついた老人、神経質そうな男などの他に、犬や鳥もいた。
その者達は、皆、瞳に強い光を宿していた。
ある者は、定められた運命に立ち向かうような目を。ある者は正義感であふれる目を。ある者は子供を奪った世界を憎しむ目を。ある者は無表情の奥に隠した悲しき目を。ある者は消えた妻を取り戻すための決意の目を。

そして、少年も強い決意の元、この場に立つ。











あの後、男はこうも続けた。「ただし、貴方様の姉君は、貴方様と同じく稀有な力を持っていたようです。歴史が正されれば、元に戻る可能性は高いです」と。

家族を取り戻すために、少年は、終わりなき戦いに身を落とした。

家族を取り戻したい。その想いを強く胸に抱いて。





-3:きっと家族は戻ると信じて


ル戻


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