※ニ章
87話をもう一度読み直していただくことを推奨します※
そこは美しく優しい世界だった。澄んだ青空の下には、色とりどりの花が咲き、そよ風が花の優しい匂いを運ぶ。世界はお日様の光を浴びてキラキラと輝き、花には美しい蝶が羽を休め、川に流れる水は澄んでいて、一面の花畑をより優しくあたたかな世界へと彩っていた。
どこまでも続く花畑を進んで行くと、黒い彼岸花が一つ咲いているのが見えた。他の花より二つ分程大きく、黒い光を纏うそれは、遠くからでもよく目を引いた。近付くと、黒い彼岸花の周りだけ、花が枯れているのが分かった。色を失い水分も無く乾燥し、首がしなだれ、何日も野ざらしにされた野花のように枯れていた。
明らかに、黒い彼岸花はこの世界の異物だった。
ある時、突然世界に暗雲が立ち込め、世界を暗闇に変えた。
《赦さない。鬼舞辻無惨を絶対に赦さない。殺してやる》
静かな空間に少女の声が響いた。声に共鳴するように空から大きな一つの黒い雫が、涙のように地面に降り注ぐ。
黒い雫は落ちた場所を起点として、黒く光る波紋を生じさせながら遠くへと広がっていった。同時に周辺の花々を次々に枯らし、澄んだ美しい川は、黒い泥水に汚染され毒沼へと変貌していく。
《あいつを殺す。絶対に殺す》
枯れた場所には、代わりに黒い光を纏った黒い彼岸花が幾つも君臨する。
《どんな手を使ってでもあいつを地獄に落とす。殺してやる》
声が世界に反響する度に、黒い雫は降り注ぎ
《よくも殺したな。禰豆子ちゃんを、………炭治郎君を！！》
次々に、色とりどりの花々を枯らした。
《私から、竈門家の皆を奪った……。赦さない！鬼舞辻無惨…！！！》
美しく優しい花畑の世界が消え去ろうとし
《私自身が地獄に堕ちようとも、鬼舞辻無惨を殺せる力が欲しい》
世界に殺意と怨嗟が木霊し、世界に綻びが生じた。
すべての花が枯れ、一面の黒い彼岸花の空間に変わりかけたその時。
７つの小さな光がどこからともなく現れ、残り僅かな花々を守るように、黒い彼岸花から花々を隠すように、声の主を慰め寄り添うように漂っていたが、
《こんな未来、認めない。こんな結末、赦さない。こうなってしまったこの世の全てを呪う》
呪いが世界に響いたあと、７つの光は外へと弾き飛ばされてしまう。
こうして、美しく優しかった世界は、怨嗟渦巻く黒い彼岸花一色の世界へと姿を変えた。
-4:黒い彼岸花、開花する