88:1本の赤い薔薇の意味を少年は知らなかった

重い。そう感じて起き上がると、身体と顔からぱらぱらと土が落ちた。
次に眩しいと思った。右手で顔の上に影を作り目を細める。

朝だ。

太陽の光が眩しくて、目を細めて少しの間耐えていると、徐々に光に慣れてきたので、目をそっと開けて辺りを見回す。ここは、竈門家の前の庭だった。

寝起きのぼんやりした頭でぼうっと眺めてから、今度は下を見る。

どうりで重いと感じるはずだ。私の下半身は、丸ごと土に埋まっていた。上半身も土を被っていたけど、胸部を中心として土が崩れていたので起き上がれたのだろう。

「なんで…私、…土の中にいるんだろう」

前後の記憶がどうしても思い出せなくて、頭の中に疑問符ばかりが浮かぶ。更なる情報を探そうと、右横を見て、とても不快な気分に陥った。
だって私の横には、盛り上がった土が何個か並んでいたから。まるで昔のお墓みたいで、酷く気味が悪い。

やだやだ。早くここから出ようと、土から這い出そうと左手を地面について気付く。左手の指と手首にガラス製のバラのネックスが巻かれていた。

「なにこれ……きれい…」

太陽にかざして、バラの装飾を眺める。日の光を浴びてキラキラと輝き、薄っすらと赤みがかった色と輝きにうっとりとする。

「私、こんなの持ってたっけ…」

言いながら、首にかけ満足気に眺めた。

「ふふ、可愛い……」

私の手にあったのだから、もらっても良いのだろう。ネックレス一つで満ち足りた気持ちになり、そのまま何とか土から抜け出して、家に入ろうと戸を引いた。

「……あれ?」

竈門家の戸は古く建てつけが悪いため、突っ掛かりがあって開けにくい。だけど、上げながら押すように引けば一回の動作でスムーズに開く。いつもの癖で、この開け方をしたら、戸が勢いよく開き大きな音を立てた。

よく見れば、傷が幾つもあり変色した古い戸ではなく、真新しい戸に変わっていた。
私が頼んだ大工さんがもう来たのだろうか?いつの間に?

そう疑問に思いながらも家の中に足を踏み入れた。

家の中は静まり返り、物音一つしない。居間に行くと、色落ちして古かったけど、どこか優しい色をした障子も床も全て新しい物に変わっていた。一部の壁は水飛沫のような黒い模様がエガカレテイタ。あぁ、やっぱり頼んでいた大工さんが来て、交換してくれたのだろう。……だけど、どうしてだか、床や障子の淵、箪笥には埃が積もっていた。
掃除好きの炭治郎君が、こんな状態になるまで放置するはずないのに……。この静けさと言い、なんだか夢を見ているような気分だ…。



「炭治郎く〜ん?」

少し大きめの声で呼びかけるも反応はない。

「禰豆子ちゃん?」

奥に向かって歩き始め、一つ一つ部屋を覗いていく。

「竹雄くん?」

歩くたびに、埃で白くなった床に足跡がつき、雪の上を歩いているような感覚に陥った。

「花子ちゃん?」

家の中は全部探して見たけど、誰もいないし、物音もしないし、埃もすごい。

「茂くん?」

一旦外に出で、炭焼きの窯に行ってみるけれど、

「六太くん?」

ここにもいない。もうあそこしかないと、最後の場所、裏庭にまわった。

「葵枝さん?………あれ?」


裏庭に来て、すぐに気が付いた。

「……スズラン……枯れてる」

5月からずっと咲いていた皆の花畑のスズランが全て枯れていた。
スズランだったモノは乾燥し土の上に倒れるように重なっていて、枯れた後にずっと放置されたまま。そんな状態だった。

このスズランだけはずっと咲いているような気がしていたから、なんだか大切なものを失ったようで悲しい気持ちになる。

「……………しょうがないか。本来花は枯れるものだし」

けれど、裏庭にも居ないとなると、いったいドコニイッタノだろうか。腕を組み唸りながら考えて数十秒。閃いたとばかりに、手をポンっと叩く。

「あ!そうか!隣町に行ったんだ。も〜う、ひどい!私だけ置いて皆で逝くなんて」

そのまま、身体の向きを変え、隣町に向かって鼻歌混じりに歩きだした。





※大正コソコソ噂話※
ずっとハイライトが消えてる。


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