74:その先に続くのは一面の花畑なのか

二日前に降り始めた初雪は、やんだり降ったりを繰り返しながら、今朝方まで降り続いた。
雪が降ると気温はガクンと一段階落ちるもので、あまりの寒さに朝起きて一番に思った事が、寒すぎて死んじゃう!だ。

冷えすぎたせいなのか、朝起きた時にはすでに囲炉裏の火が消えてしまっていた。布団から一歩出ると、室内の水さえ凍っている地獄。同じタイミングで目を覚ましていた炭治郎君と共に、寒さに震えながら外まで炭を取りに行き、急いで火を熾すと、じんわりとゆるやかに手先から温まり、身体の強張りが自然ととけていった。肩をよせあいながら白湯を飲み、優しい火を眺め二人でほっと息をついた。



部屋も十分に温まった昼すぎ。禰豆子ちゃん、葵枝さんと共に夕飯の準備をしていれば、外から笑い声が聞こえてきた。
気になり勝手口を少しだけ開けて見れば、雪かきをしていたはずの炭治郎君と竹雄くん、茂くんが雪を投げつけて遊んでいた。きっと、雪かきに飽きた茂くんが炭治郎君に遊んで欲しくて始めたんだろう。
そんな、ほのぼのした光景の一部。畑の横にある、手製の小さな屋根に視線が移る。その下には木製の札で皆の花畑と書かれており、私が最初に咲かせた花、スズランが雪の中で元気に咲いていた。

「まだ、咲いてる…。こんなに寒いのに…」

私が咲かせ花は、どれも49日を境に枯れてしまっていた。…けれど、なぜか《このスズランだけ》は、いまだに枯れる事なく半年以上も咲き続けている。

「でも、雪と花の組み合わせってロマンチックかも………あ、そうだ!」

いいこと思いついちゃった!と両手をパンっ!と叩けば、禰豆子ちゃんと葵枝さんは、また何か思い付いたの?という顔。それに、むふふとにやけた笑顔で答えた。

「明日、あの場所に行きましょう!」







次の日。昨日までの雪は何だったのかと問いたくなる程の、晴れ間と気温。けれどまだ雪と氷は溶けきっていないので足元に注意しながら、私は皆を連れて、竈門家の秘密のあの場所へと訪れていた。

「さむーい!はやくかえってお汁粉たべようよ〜」
「茂くん待ってて、すぐに終わるから」

町を見渡せる開けた場所まで行き、皆を一ヶ所に集めて、その周りに円を描くように種をまき、「皆様お願いします!」と両手を広げると、花子ちゃんが一番に飛びついてきて、次に茂くんと六太くん、少し間を開けて禰豆子ちゃんが抱きついてくれた。多人数版ギュッポンです。

(あぁ、あったかい。幸せだなぁ…)

目を閉じて皆をまとめて抱き締めるように手を回したすぐ後に、雪の上から柔らかい白い光がのぼった。光と共に赤と白の花が多数咲き乱れ、一面の雪に反射した朝日を浴び、キラキラと輝いている。通常では見れない組み合わせが幻想的な光景を生み出し、誰もが言葉をなくしたように釘付けになった。

「すごい…綺麗…」

あまりお花に興味がなさそうな竹雄くんも茂くんも六太くんも私の側から離れ、目をいっぱいに広げ、花を食い入る様に見つめている。



どのくらい皆で見ていただろうか。ふと、私に抱きついていた花子ちゃんが、私にだけに聞こえるような小さな声で言った。

「花子ね、前はそんな事なかったんだけど、花をみるとあったかい気持ちになるの」

花子ちゃんは雪に咲く花を見ながら、ぽつりぽつりと話し続けた。

「桜おねえちゃんがあげたお花で皆嬉しそうに笑ってる。家族に友達に好きな人にあげるんだって、お花を抱えてにこにこしてる」
「花子ちゃん…」
「お母さんが、お兄ちゃんが、お姉ちゃんが、お花の匂いをかいで幸せだなって笑うの。これは、全部桜おねえちゃんがくれたものなんだよ」

花子ちゃんは、私を見上げて満開の桜のように、笑った。

「だから花子ね。将来、お花屋さんになりたい」

《お花屋さんになりたい》。その一言に込められた沢山の気持ちに、胸が締め付けられ、頬に一筋の涙が伝った。

「だって花子は、花の子だからね」

照れた様に言う花子ちゃんをぎゅっと抱き締めた。

「ありがとう…」
「花子、お母さんのお手伝いしていい子に待ってるから。だから帰ってきたら、町の事も、今回の事もいっぱいお話してね」






明日は、東の町へ出発する日だ。






※大正コソコソ噂話※
夢主が未来に帰らなければ、一緒にお花屋さんをしたい。
夢主が未来に帰ったら、夢主との思い出を胸にお花屋さんをやりたい。
どんな形でも大好きな貴女と、ずっと一緒にいたいな。


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