3:彼岸花
横で待っていたはずの友人に、待たせてごめん、と言おうとしていた口をだらしなく開けまま、呆然と辺りを見回す。
ここは、水平線の向こうまで彼岸花が咲き乱れる以外何もない空間だった。彼岸花はほとんどが赤色だったけれど中には青、黒、白色も見えた。空は朝方、夕暮れ、どちらともとれる不思議な空模様なのに、どこか薄暗い。風はなく、暑さも寒さも感じない。川は無いけれど、もし三途の川やあの世への入り口なんてものがあるとしたら、まさにこの場所を指すのだろう。
「え、……え?」
思考停止状態から少しづつ回復するも、私の口からは不安で震える掠れ音しかでない。
「みんな…どこにいったの?…ね、ねぇ。みんな…」
自分にしか聞こえない、今にも消えそうな小さな音が空間に響くが返事はない。
「…はっ!そうだ!ケータイ!」
学校指定の鞄からケータイを急いで取り出し、履歴の一番上にある母親にかけようとするも、あるマークを見て絶望する。
「…圏外」
操作は出来るけど、ネットも電話も使えない。
「うそ……」
力の抜けた手からケータイが滑り落ちた。拾う事はせず、そのままその手で頬を抓れば、じんわりと痛みが伝わり涙が滲んだ。
夢だと思いたかったけれど、夢にしてはリアルすぎる彼岸花だらけの景色と痛覚が、『今、私は一人で、あの世みたいな場所にいる』と自覚させた。
歴史博物館は消えた。誰もいない。ケータイも使えない。理解したくない非現実的な状況に背筋が凍りつく。
目眩を生じさせる程の恐怖と不安で暴れる心臓を両手で握るようにして抑え、意味もなく歩き始めた。だって…なにか行動していないと不安で気が狂いそうだったから。
けれど、歩けど歩けども景色は一向に変わらず、
歩き始めて数日が経過した。