149:繋ぎ合わせて見えた、軌跡

記憶の中の実灰さんと、「そうだよ。僕ちんだよ」と頷く人物が余りにも違い過ぎて、思わず凝視してしまう。

自分の知っている実灰さんは、いつも大きなお腹をたゆんたゆんと揺らしながら、桜さんと桜さんの花を嬉しそうにみつめる姿であって、病人のように痩せ細り辛そうに口角を上げるような人物ではなかったはずだ。

「その姿は…」
「病気とかじゃないよ。ちょっとは痩せた方がいいかなと思って」

僕ちん頑張ったんだ〜と笑っているが、明らかに良い理由でない事は匂いを嗅がずとも分かった。

「炭治郎くんは、……無事だったんだね。よかったよ」

そう言って辛さを隠すように薄幸に笑う姿に何となく察しまう。きっと桜さんが理由なのだろうと。












その後実灰さんの「桜ちゃんの事で話したい事があるから、三郎さんのとこで話そう」という提案に直ぐ様頷き、三郎爺さんの家へと全員で向かった。

2年ぶりに再会した三郎爺さんは俺を視界に捉えた瞬間、存在を確認するように俺を抱きかかえた。背中に回された両腕は老人とは思えない程力強く、そして少し震えている。言葉数少ないながらも三郎爺さんの想いが伝わってきて、視界がぼやけ喉の奥がきゅっと締まった。


しばらく再会を分かち合った後、外で走り回っている伊之助と箱の中の禰豆子以外全員、床の間に円を書くように座りすぐさま本題へと入る。


「2年前のあの日…12月10日の夜に桜ちゃんから貰った花が一斉に枯れたんだ。まだ購入してから数日しか経過してない花もあったのに、一斉に……」
「あの日の夜、か……」
「その4日後、桜ちゃんが依頼していた大工の人達が血塗れの家と6つの土墓を発見して……。三郎さんが、炭治郎君と禰豆子ちゃんが山を下りていたのを見てたから、他の6人だってなったんだ。それから桜ちゃん達の四十九日の日、北路さん達が弔花を供えに行こうとしていたんだって。僕ちんはその時、酒屋の仕事で隣町から帰ってくる途中だったから見てないんだけど、確かに町の皆が見たらしいんだ。赤黒く変色したボロボロの着物を着て、真っ白な髪と目をした桜ちゃんを。ウサワさんや北路さんが名前を聞いたら、自分は桜だってはっきりと言ったのを何人も聞いてる。だけど桜ちゃんは酷く記憶が混乱してたみたいで、錯乱したようにすぐに山へ戻ったみたいなんだ」

あまりにも悲惨な状況に桜さんの心情を慮るだけで心臓を直接抉られたような心地になる。心を落ち着かせる時間を欲しい気持ちを抑え込み、桜さんの現状を知るための手がかりだと気を持ち直す。

「…その後はどうなったのですか」
「僕ちんが帰ってきた時は、町の方も大騒ぎで…。何人かが桜ちゃんを退治しにいこうって集まってて。僕ちんと北路さん、三郎さんを中心に何人かで必死に止めて」
「……桜ちゃん…だからあんなに……」

いつもは奇声を上げながら騒ぐ善逸も、今回ばかりは一字一句聞きのがさないように耳を澄ましているようだ。

「騒ぎが治まった翌々日には桜ちゃんはもう町から出ていて…。この時の話は」

そう言ってチラリと三郎爺さんを見た実灰さんに、三郎爺さんは頷き鋭い眼差しで話始めた。


三郎爺さんは町での騒ぎを聞いてすぐに桜さんの後を追い、そこで桜さんを見つけた。鬼を知っていた三郎爺さんは、これは鬼の仕業である事、そして俺達が生きている事を伝えると桜さんは希望を見出し、俺達の行方と鬼への復讐の旅を決意し、北の道へと進んだらしい。
 

三郎爺さんの話が終わった後、俺と善逸も伝えれる情報を二人に伝えた。全ての話が終わった後、全員が黙りこみしんとした空気になる。その空気を裂くように、実灰さんが両手をパンっと鳴らす。

「あ、そうだ!二人共、鬼殺隊士って事だよね?僕ちんに協力できることがあったらなんでもいってねん。ほら、これ」
「この家紋は…!」

実灰さん家の酒屋の印が入った腰巻きには、小さく藤の家紋が刺繍されていた。その家紋は今お世話になっているひささんの家と全く同じもの。

「なぜこれを?」
「三郎さんに桜ちゃん達の事は、人喰い鬼が関係しているって聞いててね。そのすぐ後に、鬼滅隊士の女の子2人が調査に来たんだ。その女の子達経由で何とか頼みこんで、藤の家紋を名乗らせてもらう事ができたんだ」

三郎爺さんはいつものしかめっ面に、願う気持ちを混ぜたような顔で力強く言った。

「必ず3人揃って無事に帰ってこい。いつでも家に帰ってこれるよう、家の手入れはやっておく」
「それと町での桜ちゃんの噂も、僕ちんと三郎さん、北路さんで何とかしておくから……だから、……だから。3人で無事に帰ってきてね」

二人の実直な優しさに感極まり、深く頭を下げお礼を伝えた。人との絆とはなんて暖かいのだろう。

桜さん、大丈夫です。俺達の帰る場所はちゃんとあります。そう今すぐに伝えたくなった。

「あ、お願いって訳じゃないんだけど、藤の家紋名乗る時にお世話になった、名前は確か…、動子ちゃんと静子ちゃん。特徴は二人とも綺麗な蝶の髪飾りをしててね、もし二人を見かけたらよろしく伝えて欲しいんだ」
「はい!もちろんです!」

















ひささんの家に帰える途中、ようやく頭の中で考えていた情報が一つにまとまった。

「全てが繋がった」

実灰さん、三郎爺さん、善逸、伊之助から得た欠片を繋ぎ合わせ見えてきた、桜さんの軌跡。


目を瞑ると、いつだって花に囲まれた桜さんがいた。けれど桜さんは遠くにいて手は届かない。桜さんの近くへ行くことは出来なかった。

けど途絶えていたはず光の道筋が、桜さんに向かって生まれていく。


死んでしまった桜さんは何かの理由で生き返り、今も何処かで俺と禰豆子を探しながら鬼狩りを続けている。
生きているなら、目指す場所が同じなら、必ずいつか再会できるだろう。



それもきっと近い内に。



関連話 140142


戻ル


- ナノ -