137:雷で髪色変わるなんて事ありえるの…?

それは、桃が膨らみ始めた、二十四節気の清明の頃だった。


修業から帰ってきたら、朝までは黒色だったはずの善逸くんの髪の毛が黄色に変わっていた。タンポポの色に似た明度の高い黄色は、夕闇の中よく目立っていた。

おもわず二度見した後、染めたのかと聞けば、焦げ跡を残した善逸くんから返ってきた答えは、「雷に打たれて髪色が変わった」。

意味が分からなすぎて数十秒固まった後に、聞き間違いだったのかもしれないと思い直し、もう一度同じ質問をすれば、一字一句同じ答えが返ってきた。
助けを求めて隣の桑島さんを見れば、神妙な面持ちで、本当じゃと何度も頷かれた。

修業と雷で汚れた服のまま、不安そうに私の反応を伺う善逸くんに、気の利いた言葉をあげれたら良かったのだけれど、思考を放棄した飽和した脳みそでは「タンポポみたいで可愛いよ…」と答えるので精一杯だった。

なんとか、床につく頃までには、普段通りの冷静さを取り戻せていたけれど、本当の驚きは翌日の朝に待ち受けていた。
善逸くんが、真面目に修業を始めたのだ。修業中逃げる回数が極端に減ったし、夜中の自主的な修業も回数と時間が増えた。泣く回数は変わらなかったけど、今までのさぼり癖はなんだったのかというくらいに、善逸くんは修業に打ち込んだ。

あまりの変貌に、善逸くんの頭がおかしくなったのではないかと心配になり、何があったのかと真剣に問えば、雷に打たれた直後に言われた桑島さんの言葉に目が覚めたのだと言った。

桜ちゃんのお蔭でもあるんだと言って、恥ずかしがって詳しくは教えてくれなかったけれど、「答えは最初から自分の中にあった」と、強い眼差しで真っすぐに未来を見ていた。



そしてそれから一月もしない内に、善逸くんは、雷の呼吸を取得した。獪岳くんが唯一取得できていない、壱ノ型を。




そこから、全てが狂い出した。


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