ダレカガミタ、ミライ
番外編『
ダレカガミタユメ 』のその後のお話です。
「こんにちは〜!」
「お邪魔します」
雪景色残る裏庭で炭治郎君と二人で保存食の処理をしていると、明るく可愛らしい声と上品で優しい声が聞えてきた。聞きなれた、けれど随分と久しぶりに感じる声に一気に心が弾む。
期待を込めて振り向けば、炭治郎君は、目を子供のようにキラキラと輝かせる私を見て小さく笑った後、優しい顔で行っておいでと頷いた。
「ありがとう!」
戸口までのたった数十歩がもどかしい。気持ちが先走り縺れる足を懸命に動かして走り、戸口に立つ二人の姿が見えた瞬間、嬉しさのあまり大きな声が出た。
「しのぶちゃん!蜜璃ちゃん!」
二人に飛び付けば、二人共嬉しそうに抱きしめかえしてくれた。
「二人とも久しぶり!」
「桜ちゃん会いたかったわ〜!」
「私もだよ蜜璃ちゃん!いつぶりだろ?3週間ぶり?」
「49日ぶりですね」
「もうそんなになるんだ?!」
久しぶりの再会に、話が弾み止まらない。矢を射る如く話題が移り変わっていく久しぶりの女子トークに寒さも忘れその場で立ち話をしていると、禰豆子ちゃんが戸口から顔を覗かせ、寒さに身を震わせながら手招く。
「お久しぶりです、しのぶさん、蜜璃さん。皆さん寒いので中に入って下さい。温かいつみれ汁ありますよ」
「あ!おねえちゃん達いらっしゃい!」
続いて禰豆子ちゃんの後ろから茂くんが顔を出した。茂くんは蜜璃ちゃん手元にある風呂敷を目聡く発見し、二人の周りをぐるくると周りだした。
「ねぇねぇ!今日のお土産はなに?!」
「今日は桜餅よ〜」
「もしかして東町の?!」
「もちろんよ!100個買ってきたわ!」
「やった〜〜!!僕そこの桜餅好きなんだ!!ありがとう〜!」
蜜璃ちゃんから桜餅を受け取ったは茂くんは、匂いを堪能するように大きく鼻で息を吸った。数秒の無言の後に喜色満面に代わり、茂くんは野兎のように飛び跳ねながら、家の中へと戻っていく。可愛らしい姿に4人でくすくすと笑っていると、しのぶちゃんが私の目の前に蝶柄の風呂敷をかかげた。
「それと、お赤飯を持ってきました」
「…!」
顔がかぁっと赤くなる。
こういった時のお赤飯の意味は、大正で五年も暮らしていれば自ずと分かってくる。お赤飯=おめでたい、である。にこにこと笑うしのぶちゃんの表情から全てを知っているのだと悟って、更に顔に熱が集まった。
「な、なんで、知ってるの…」
恥ずかしさから声が小さくなり、両手を意味もなくもじもじさせてしまう。その反応をみてしのぶちゃんが更に笑みを深め、蜜璃ちゃんは真っ赤に染まった頬に手を当てて黄色い声を上げた。
「その反応は…成功したのですね。桜さんに自覚せることに」
「きゃ!おめでとう桜ちゃん!話聞かせて!今すぐ話しましょう!」
「では、一から詳細にお願いします」
「本当に素敵だわ〜!どんなふうに想いを告げられたのかしら?やっぱり」
「二人とも落ち着いてください。二人のいちゃらぶネタなら沢山ありますから」
「さすが禰豆子ちゃんね〜!」
「というか、なんで二人とも知っているの…まだ、手紙で知らせてないけど」
「半年前から皆で計画を練っていましたから。今年の桜さんの誕生日に想いを告げると」
「い…いつのまに」
「お誕生日に告白する!は私の提案なのよ。女の子の浪漫よね〜」
「薔薇108本渡すのは私の指示です」
「禰豆子ちゃんと花子ちゃんどころか、二人も計画に加わってたんだね…」
「で、炭治郎君とはすでに夫婦という事でよいのでしょうか」
「ち、ちがうの…。まだ旦那さんじゃなくて、近い内にっていうか…。私も自覚したの告白されてからだったから」
炭治郎君は、告白して付き合うという過程をすっ飛ばして、夫婦になってくださいとプロポーズをしてきた。私は自覚して気持ちを受け入れたし、私も同じ気持ちですって伝えたけど、いきなりすぎて気持ちの整理がつかなかったので、今は結婚を前提で付き合う形にしてもらっている。正式に夫婦になるのは、炭治郎君の誕生日だ。
炭治郎君からのプロポーズの時の事を一通り話終わると、「よーし、二人が安心安全に暮らせるように私もっとがんばるわー!」と蜜璃ちゃんが拳を突き上げて、決意改めるように意気込んでいる。その横でしのぶちゃんが落ち着いた声で言った。
「ですが未来はもうよいのですか」
「…うん」
ここ、大正時代で生きると決めたから、もう自らの意志で帰ることはない。けれど、不可抗力でこちらに連れて来られたので、ある日急に未来に戻されてしまうかもしれない。
でも、炭治郎君はその事をちゃんと理解している。もちろん、私も。
だから、日々を一日一日を大切に生きようと思う。
突然、離れ離れになってしまっても、遠くからお互いの幸福を願い合い、心に生まれた温かくて幸せな思い出を胸に生きていこうと。
だから大丈夫だよと二人に伝えれば、二人とも安心したように微笑んだ。
「で、でね?だから、なのかな…。あのね、炭治郎君、あの…、以外に積極的というか、うぶそうに見えたのに、押しが強いというか…」
「あら」
「きゃーー!!素敵!素敵!!じゃあもう口付けはしたのかしら?!」
「な!な!み、みつりちゃん!それは、あのその…!」
「そろそろ中に入りませんか?」
急に聞こえた声に心臓が飛び跳ねる。勢いよく振り向けば、ほんのりと顔を赤めた炭治郎が立っていた。炭治郎君の照れたような表情が、全て丸聞こえだったと物語っている。
だけど照れいるはずのに、どこか穏やかで満ち足りた顔で余裕さえ感じさせる。昔だったら、顔を真っ赤にして動けなくなっていたのに…。
ふと感じられた男性らしい姿にときめいてしまったのと、聞かれた恥ずかしさから、誤魔化すようにしのぶちゃんと蜜璃ちゃんの手を取り引っ張る。
「さ、寒いから!寒いから!早く中に入ろ!!」
「桜さんは熱そうですが?」
「もう!そこは突っ込まないでよ禰豆子ちゃん!」
※大正コソコソ噂話※
番外編のダレカガミタユメの続きのお話になります。ダレカガミタユメを更新した時は(2020年5月頃だったかな?)タイトルの意味が分からなかったと思いますが、2024年10月現在の最新話まで読めば、このタイトルの意味が予想出来るかなと思います。