34
「なかじまぁー。おかわり」
「かしこまりました」
中島が僕のティーカップに紅茶を注ぐのを見ながらお菓子をパクリ。
「ねぇ、斎」
「ん?何?」
「そろそろ家に戻らない?
いつまでここにいても仕方無いでしょう?」
「嫌だよ!
なんで僕があんな所に!
……ごめん、訂正。
一応、実家だし母さん達の家だからね。
でも嫌な物は嫌だよ。
餓鬼が駄々こねているようなもんだって、わかってはいるけどさ。
どうせ帰った所で窮屈なだけだよ。
僕にとって家は苦痛なんだ。
母さんが言ってる事もわからなくもないし、わかってはいるけどさ。
また僕が本家に戻る事で僕が内部で持つ力が増えて。
それでまた傷つく人ができたら今度こそ立ち直れないよ。
祭もようやく、笑えるようになったんだ。
母さん、どうしても駄目なの?
………そう。
わかった。
うんん。
謝らなくてもいいよ。
いつかはこんな日が来るとは思ってたし。
本家行くならそうだね。
あの狸達との交渉も楽になるのかもしれない。
じゃあ、中島出かけてくる。
荷物は後でまた送ってくれれば構わないからさ。
じゃあ、行こうか母さん」
「ええ」
紅茶をいっきに全部飲んで、席から立ち上がる。
懐かしいな……。
我が家。
霞ヶ丘が嫌いといえど実家だからね。
懐かしいとも思えるさ。
僕の部屋はそのまま残っているみたいだ。
いいよ。
僕もいい加減の腹をくくるさ。
車の中に乗り込んで神の子に婚約の件について連絡の為のメールを作成画面を開けた。
めんどくさいから祭とキングと一括送信しちゃえ。
「「「「お帰りなさいませ奥様、斎お嬢様」」」」
玄関の扉を開けるとメイドと執事達がビシッと一列にならんで頭を下げている。
懐かしい光景だなー。
昔は毎日見てたよ。
なれって怖いね、うん。
「うん、ただいま。
みんな元気そうで何よりだよ。
所々見かけない顔があるね。
新入りかい?
そう、宜しくね。
知ってると思うけれど僕は霞ヶ丘斎だ。
けれどそこまで畏まらずに気軽に話しかけてくれると嬉しいな。
あれ?
宮口と朝倉、それに粟田がいないね。
何?退職した。
数年離れただけで、人の入れ替わりは激しいね。
悲しい事に。だけれど仕方無いのだろうね。
月日は百代の過客にして行かふ年も又旅人也。
としういうからね。
彼らが良い老後を迎えている事を祈ろうじゃないか」
ふふふふ、と笑いながら母さんと共にとりあえず母さんの部屋へ。
するとどこから嗅ぎ付けたのかわからないけれど狸その一が。
「これはこれは斎お嬢様ではございませんか。
懐かしゅうございます。
ますます美しくおなりになられて……。
それで本日は本家のほうに」
「長い世辞は無用だよ。
僕は母さんと話があるから 出てってくれないかな。
……あぁ、後で話があるから僕の部屋に来るように」
「はい、では」
去って行く狸にあっかんべーをしてやったら母さんにはしたないと怒られてしまった。
全く、どこから僕が帰ってくる事を嗅ぎ付けたんだろう。
嫌になるね。
狸が。
けれど後で狸の言い分をきかないといけない。
狸とお話すると思うと今からぞっとするよ。
震えた携帯を見ると神の子から頑張ってと書いてあって思わず頬を緩ませる。
君のそう言われたら頑張るしかないじゃないか!
「あら、幸村君から?」
「わかる?」
「幸せそうに笑ってますもの。斎はいい人を見つけたわね」
「ありがと。さて、あの狸をどうするか、考えようか、母さん」
狸なんかに負けるか!
前次
戻る