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全員がいなくなった所で現場検証としゃれこんでみるか。
ここは嫌に地面に起伏があるな。
気をつけて歩かないと椎名さんみたいに僕も転んでしまいそうだ。
それに。
「お疲れ」
上から声。
神の子だ。
「ありがとう。
しかしまだ見ていたのかい?」
僕の返事に神の子はだって、面白かったからねと答えた。
「相変わらずの手腕だね。
場の支配権を得るのが上手い。
リーダーになれる性質ではないけれど裏幕にはなれる」
「裏幕、ね。
別に僕は好き好んで裏幕になっているわけではない。
僕の性質が、才能がそっちに向いていたからそうなった。
超然たる事実に従って僕は僕自身の才能を磨いただけに過ぎない。
無い才能なんていくら鍛えたって限度がある。
このおしゃべりだって、長々と話して誤摩化す他にも理由がある。
例えば、今神の子が言った場の支配権を得る為だ。
だからいつだって場は僕の思いどうり、その場にいる人を思いどうりなのさ。
だって僕は霞ヶ丘の一人娘。
あの跡部家と同等の財閥の直系のたった一人の子供。
日本で一番。
否。
世界で一番の企業。
僕がそこを継ぐんだ。
どろどろな世界に打ち勝つ術を得ないと生きていけなかったんだよ。
実際の所。
流石に現代社会だから暗殺なんて怖い目にあった事はないけれどね。
それは助かった。
僕は運動神経なんて皆無だ。
生まれる時代を間違わなくて良かったよ。
あ、いや。
すると護衛を雇うから結局はあまり関係ないか。
でも生まれた時から欲や、嫉妬や様々な不の感情を見続けたら嫌になるさ。
何もかも。
全てを壊したくなる。
気持ち悪い」
「斎。
人を簡単に信じられないのはわかるけど」
「解ってる。
解ってるさ、精市君。
嘘まみれでもきちんと信じるにたる物もたくさんあると知っている。
それに僕は君の事を一寸たりとも疑わないさ。
疑わないと己で決めている。
そう言う約束だろう?
精市君は精市君の全てをかけて僕を守ってくれると、信じさせてあげると。
そう言ったのだろう?
ふふふ、まるでプロポーズみたいな言葉でドキドキしたよ。
忘れられない台詞だよ。
すっごく男前だったよ、うん。
だからそんな君を僕は愛しているし、精市君はそんな哀れな僕だから愛しているのだろう?」
「たしかに、シン最初は哀れだと思ってたけど今はそれだけじゃないさ。
哀れだけな存在だったらシンを好きになったりはしない」
「そうかい、そいつは嬉しいね」
「弱みを出すのは俺だけにしなよ。
か弱いお前は実に他人を引き寄せるからさ」
「ふふふ、神の子がそう僕を心配してくれるだけで僕は強くなれる気がするよ」
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