16


翌日。
聞き込みの為に歩き回っていた僕がふと、なにげなく外に目をやった。
僕が普通の生徒達となんら違和感なく生徒達の集団にとけ込んでいる事実に若干、違和感を感じて人気のない廊下を選びながら根城の帰る途中の話だ。
僕がや目をやったのはカメラをしかけた所の一つ、校舎裏があったのだけれど。

「なんて嫌なタイミングだろう。
 ふと清々しい空をみようとしたら清々しいとは逆反対なイジメのシーンだなんて。
 あれはエース君とスー君かおまけに黒豆。あと嵐二人。
 スー君は傍観を決め込んでいるようだが。
 僕の釘止しが悪い方向に向かった結果か。
 可能性は考えていたがもうちょっと考えて行動して欲しい物だ」

疑問がわいて、分け解らなくなってそこに椎名さんが怪我をしたのだから、混乱が相まって八つ当たりじみた暴力を今にも振るいそうだ。
でもな、でもでもでもな。
ここでエース君が暴力を振るったら契約違反と言うものだろう。
幸いここは二階。
エース君が拳を上げた瞬間に僕は窓を開けて飛び降りた。
文字どうり、飛び降りた。

「スー君!」
「え?はぁぁぁぁぁあああああ!?」

慌てて僕を受け止めるスー君。
さすがだよ、君なら僕を受け止めてくれると思ってたよ!
僕は生憎二階から飛び降りるなんて荒技はできないけれどでも普段鍛えているスー君なら問題ないと踏んだのだ。

「なんなんだよ、お前!」

僕を降ろしたスー君が避難がまくし上げた声。
しょうがないじゃないか。ただ現れただけだったらエース君の気をそらせないじゃないか。
さて、なんなんだよ、お前!か。
こんな荒技をした僕に対しての危ないじゃないか、という避難の意味だがただただ普通に答えたら楽しくない。

「僕が誰かだって?
 ふふふふ、本来なら名乗る義理はないが答えてあげるのが世の情け。
 ある時は保健室登校な引きこもりの美少女!
 ある時は愛と平和こよなく愛す名探偵!
 その名も!
 斎・シャーロックさ!!」

戦隊物のポーズをして、してやったり顔の僕。
三階の窓から見える神の子が爆笑していた。
この場の空気は凍り付いた!
凍り付いたままだから、さらに口でバチコン、と言いながらウィンクをしてみせた。
それを見た神の子はさらに大爆笑。

「霞ヶ丘さん」

この場の沈黙を破ったのは久遠さんであった。
エース君はすっかり毒気を抜かれて久遠さんが胸ぐらを掴んでいた手を放されても何も言わなかった。

「ありがとう、助かったわ」
「いやいや!礼を言われるまででもないさ!
 暴力を振るわれる所を見て流石にほっておけないという、僕の正義感にのっとってしただけだからね。
 当然、当たり前の事をしただけさ。
 ふふふ、しかしエース君。暴力はいけないよ、暴力は。
 僕たちには口という物をもっているではないか。
 言葉を操るといのはチンパンジーと人間の進化の過程で生まれた大切な先祖からの贈り物ではないか。
 それをないがしろにはしてはいけない。
 僕たち人間は高尚な生き物であり続けなければいけないのだ。
 それに己の立場を考え見て行動をしなければならない。
 君は王者立海テニス部の次期エースでありレギュラーなのだろう?
 そんなエース君が暴力沙汰を起こしたら大会出場停止になる可能性がある。
 行動をおこす時は己の影響力を考えてからにしないとね。
 さて、久遠さんに暴力を振るわれたと言われる前に先手を打つ事をお勧めする。
 何、簡単な事さ。悪い事をしたら謝ればいい。
 自分のプライドなんぞ先輩方との夢を壊す事に比べたら安いものだろう?
 ただし、あくまでお勧めすると言っただけで強制はしない。
 自分の意志で謝らなければ意味はないからね。
 それが誠意と言うものだ。
 ただしやらないと言うならば久遠さんが何をしてもエース君が何か言う権利はとてもじゃないけれどないと言う事を頭に入れておきたまえ。
 さて、どうするんだい、エース君?」
「……悪、かった……」

屈辱だ、みたいな表情をしているがしかし謝っただけ冷静さを戻したみたいだね。
ちらりと黒豆を見るとほっとした顔をしている。
黒豆君は優しいな。
偽善なぐらい。
本当に優しいなら僕がとめに入る前に止めて欲しいものだ。
優しすぎて、優柔不断になるなんて本末転倒と言うものだよ。

「さて、久遠さん。エース君がこう言ったんだ。
 許してやってくれないか?」
「……ええ」
「だってさ。良かったね!」

ふふふふ、と笑ってみせた。

「さて、椎名さんは怪我をしているみたいだが大丈夫かい?」
「うん」
「怪我の原因は?」
「えっと、転んで…」

視線を反らしながら答える椎名さん。
この歳で転んだなんて言うのが恥ずかしいのだろうけれどそんな反応をするから間違われる原因になる。
狙っているのか、素なのかやっぱり判断に困る所がある。
やだやだ。
僕はちょっと眠気がようやく襲ってきた所なのにむりやり頭を駆動させるのはしんどいのに。
しかもそのせいで判断力が鈍るし、良い事がない。
つまり最悪のコンディションなのだ。

「そうかい。一人で保健室に行けるかい?
 僕としては付き合って上げたいけれどやる事がある。
 無理ならそうだな、そこの黒豆君に連れてってもらったらどうだい?」
「黒豆って……」
「失礼。でも君の『四つの肺を持つ男』ではあだ名が付けようがないので外見的特徴から言っているのだ。
 決して悪口ではない。
 嫌と言ば勿論変えざるを得ないが。
 まぁ、それはおいおい考えておくとしよう。
 では黒豆君、宜しく頼むよ。
 他のみんなもいつまでもここにいてもしょうがない。
 さっさと各自の教室の帰るといい。
 また会う時はもっと穏やかな時である事を祈るよ。
 僕たちは青春を謳歌する青少年達なのだからね。
 この時期の思い出をこんな事にはしておきたくないだろう?
 お互いにいい関係を築きたいものだ。
 僕は先程述べたように平和主義者なんだよ。
 二度と、このような場面に出会わない事を望んでいる。
 では、解散だ」

手を打って話はこれで終わりだと言うようにすると、何かいいたそうな顔をする人もいるけれどすごすごと帰って行った。



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