01
あと数日で何が取り戻せるかと言ったら、何もだろう。
それでも熱心に残りの日々を過ごす彼らに私は少なからず安堵した。
彼らは一つの事に熱中していたほうが輝いて見える。
号令に、テニスラケットが唸る音。
地を駆ける足跡、バウンドする玉。
それらが私の「当たり前」のものになったのはいったいいつだったのか。
考えてみるけれどあまりに日常過ぎてわからない。
やっぱり、ハルかな。
私の始まりは何時でもハルだったような気がする。
「十分休憩でーす」
拡声器を通じてテニスコートに響き渡る声。
谷岡さんの声だ。
本性がばれたのであの甘ったるい声は止めたらしい。
すると案外彼女の声は素っ気ない感じで通る声をするのだ。
思うに私は谷岡さんは実はツンデレなのではないかとここ数日考察している。
ツンデレ。
普段は「ツンツン」しているが、特定の条件下になる「デレッ」とすること。
又は、本当はその人の事が好きなのに恥ずかしいからとわざとそうした態度をとる人。
以上前世の友人談。
ツンデレの魅力について小一時間程度ステレオ状態で聞かされたのはいい思い出である。
『私は反省も後悔もしてないわよ!』
と私に宣言したのに関わらず態度が変わってるのだ。
ツンデレだろ、ツンデレ。
ツンデレ乙。
というのは、まあ、冗談で。
本人もそのままだと意味のなくなった事とか、周りの矯正が入った結果なのだろう。
そこあたりの話し合いは私は聞いてないので預かり知らない事だが。
とりあえず最終日に円滑に物事が周り始めたという印象である。
ん……?これって青春漫画アルアルでは……?
こう、最初ギスギスだったのに最後には和解して、というのはよくある話だ。
いやもうこの世界はそういう恥ずかしい展開あるけどさー。
技名しかり。
実はテニスではなく、バスケとかでもあったりするのだから恐れ入る。
「それに巻き込まれる方は恥ずかしいな……」
「何が?」
ぼそって呟いた私にのしかかってきたのはハルである。
昨日散々からかってあげたばかりなので若干警戒しているのはやむを得なかった。
「いや、ツンデレは聞いてる方が恥ずかしいなって事」
「舞からツンデレって単語を聞く日がくるとは思わなかったぜよ」
最近、お前のキャラ崩れてないかと問われた私はとりあえず首を傾げておいた。
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