01
「それを言ってどうするの?虚しさを与えるだけなのに」
自分が漫画の世界の人間だと思うことは難しい。
信用してそうだと肯定したとしても、それなら今までの人生は予定調和なのか。
そう思って苦しめてしまう。
そんなこと言って何の得になりえるというのだ。
言わないのは、受け入れてくれなういという恐ろしさゆえではないのだ。
「そうは思いませんか、渡瀬先輩」
「……言わないという選択は、裏切りでもなんでもないと思う」
普段は温和な渡瀬先輩は一瞬だけ動揺したが、しっかりとした目つきで谷岡さんを見た。
脅してでも仲間に引きずりこもうとしたって無理だ。
この人は甘い。本当に甘いけれど、自分の意思を貫けない人ではない。
ぎりと唇を噛む谷岡さん。
「でもね、谷岡さん」
ふうと息をはく。
「谷岡さんの気持ちもわからなくはない」
好かれたいと思うのは私だって同じだ。
そのために色々やってる。
性格を作ってまで好かれて虚しくないのかと思ったりはするけど。
でも本人がそれでいいなら、他人がどうこういうところではないだろう。
好き嫌いはあるけれど文句を言う権利なんてないはずなんだ。
「ミーハーが嫌というけれど、どういう理由があろうとも好きなのには変わりない」
そのことまで否定はしてはいけない。
擁護するつもりはないけれど、その気持ちを踏みにじる権利はないはず。
「好きだって思いは尊いよね」
どんな種類であっても、人が人を好きになれること。
それがどれほどの奇蹟が重なっているか、知りもしないのだ。
「だからさ、私をどうこうとかするんじゃなくて
もっと自信持って胸はってればいいんじゃない?」
私もあまり人のこと言えないけど。
他人をつぶすってことは自分に自信が本当はないという証しだ。
「うるさい……」
谷岡さんは、屈辱そうに呟いた。
「うるさいうるさいうるさい!あんたに私のことをそういう権利なんてない!」
あー、本性出てますよー。
信者が驚いてますよー。
でも、知っておいたほいがいいとは思うけどね。
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