03


小春さんと別れた後に廊下から聞こえてくる声に立ち止まった。

「部長、いつになったら立海から戻ってくるんスか」
「越前か……」

手塚さんと、越前君か。何の話だろう。

「それはお互いの交流と他校のよりよい練習方法を知る為に行っていると解っているだろう?」
「他の学校は、『次期部長』が交換してんのに、なんで部長だけなんスか。納得いかないです」

ああ、その話か。けれどこれは最初から聞かれるとわかっていた事。
予想より遅いぐらいだ。

「お前は俺がいないと駄目になるような奴だったのか」
「それはあり得ないっす。ただ……わからなくなってきたんですよ。
 テニスをしたくて、面白くて。ただ、それだけだったのに。
 今の状況はなんなんだろう。こんなふうにテニスをやってきたのか、とか」
「自分の事なのに他人に頼るの?」

このままでは、やっぱり平行線なのだろう、と口を開く。
二人とも急な乱入者に驚いて振り返る。
ポーカーフェイスばっかの人間に囲まれてるから手塚さんの表情の変化もなんとなくわかってしまうんだよね。
あーあ。やだやだ。
なんで立海はくせ者しかいないのさ。
癒しが欲しい。

「君は今まで自分の事を全部、自分の意志だけで決めて来たように思ったけど」
「あんたに俺の何がわかるよ」
「わからないよ。でもわかる事もある。
 他の所が次期部長なら、なんで手塚さんが立海にきたと思う?」

答えを知るには発想が違う。
手塚さんだけが、他と違うのではない。
何故、手塚さんが行かなければ行けなかったのか、だ。
手塚さんの為にそれが行われたのだと、気付かなければ一生、気付けないままだ。

「そんなの俺にわかるハズがないでしょ」
「だから駄目なんだよ。手塚さんは確かに青学の部長だよ……今はまだ」
「それってどういう意味」
「なんとでもとっていいよ。自分で思った事が君にとっての真実だからね。
 越前君は、違和感を覚えてる。それは何故か。
 思い出して。全国が終わる前と、今の差を。
 もっと言えば、谷岡さんという存在の有無によって失った想いを」
「は、愛里が何の」
「自分で気付かなければ意味がない。それより、手塚さん。ちょっとお話が」

視線を寄越すと頷いて越前君をおいて歩きだす。
呼び止められた声は、お互い、反応しなかった。



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