02


結局、跡部さんとかに全体を見て回るのをやめると言うのは保留にしよう。
一度始めたことを途中で投げ出すなんて真田家の一員として恥ずべき行動なのだ!
精市先輩と谷岡さんの事は……考えないでおこう。
今はもっと他にすべき事がある。

「あ、ごっめ〜ん舞ちゃん。手がすべっちゃったぁ」

私が集めておいたテニスボールの籠をひっくり返す谷岡さん。わざとですね、わかります。

「いいよ、別に。それより自分の作業は終わった?半分はこなしてないと、今日中に終わらないよ」
「……まだ、だけど」
「そう。ならなるべく急いでね」
「舞ちゃんはマネージャーできるぐらい能力あるんだから、余裕あるんじゃないの?
 手伝ってくれると嬉しいな」
「私は私の事で一杯なの。それに私に構ってる余裕なんてないんじゃない」
「どういう、ことよ」
「暢気だね」

意味が解らないで苛つくのを隠さない。こうも負の感情を表に出来る人もすごいよ。

「私より貴方の『王子様』達へのすりこみをしてた方がいいんじゃない。数、減ってるの気付いてる?」

私が何かしたってわけじゃないけれどね。乾先輩が中立になってるし。
なら、自然に波紋は生じるわけで。
カッとなっているけれど手を出したらさすがにバレるしね。

「谷岡さーん」

立海コートから声。なんだかここ二、三日、谷岡さんを独占するがごとく呼んでいる。
あの状況からどうあっても谷岡さんサイドになるとは思えないのに何故。
立海のみんなの動きが読めない。

「はぁーい!」

ふふん、と笑って行ってしまう。どうだ、私はみんなに愛されてるのよ。そう言わんばかりだ。
吐きかけた溜め息を止めて、散らばったテニスボールを集める。
黙々と作業をしていると視界に入っていたボールを誰かが拾った。

「はい、舞ちゃん」
「渡瀬先輩」

谷岡さんには極力近づかないようにしていたのだろうが、一部始終を見ていたのだろう。
優しく笑うわりにどこか、苦虫を噛み締めているような雰囲気を感じた。
もしかしたら同郷かもしれない子が苦手なタイプだと思うとなんだか複雑だろう。
唯一の悩みを共有しているのはそれだけで仲間意識を持てる。

「舞ちゃんって、最近、色々な人と話してるよね。一カ所に留まってないというか……」

それは仕事に、情報交換に、と色々駆け回ってるからだろう。
立海のみんなとは夜とかはよく一緒にいるし。
私と親しい人は練習で大変なのだし当然の事なのでは。

「私は舞ちゃんの味方でいたいって思ってる」
「それは、どうも」
「だから約束して」

私の手にテニスボールを持たせ、それを覆うように手を重ねる。
渡瀬先輩は俯いていて表情は窺えない。

「独りにはならないで」

縋り付くように、つなぎ止めようかとするような必死の声音に、思わず乾いた笑い声を漏らす。
自分でもわかる。顔は全然笑えてない。

「何をいうかと思ったら。私には弦兄やハル達がいるんですよ?」
「……。うん、そう、だね。ごめん、変な事いっちゃったね。さ、さっさと全部拾おう!」

明らかに無理した微笑みだったが、私はあえて追及せずに渡されたボールを籠に入れた。



戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -