02
乾さんは要求してきた。
蓮二先輩と話す事を。
なら私じゃなくて直接いけば良い物をわざわざ私に。
この前言った事を彼は彼なりに考えたのだろう。
谷岡さんは、なんというか、変な力を持っている。
空間をねじ曲げるような。
悪用かどうかは主観によりけりなのでおいておいて。
それはもう一種の才能だ。
周りを自分の為に動かせるなんて、女王様というかある意味カリスマ性だ。
もっとも一部にしか効かないし嫌悪を覚える人もいる。
諸刃の剣だという事も理解しておかないといけない気がするけど。
話はずれたけれど、その谷岡さんの力で仲違いを起こしてしまった。
それでも本来、彼は頭がいい。
「君はこう言った。
『誰が誰を信じようと、それは本人の自由です。
他の誰かには口を出す権利さえ与えられません。
だから、貴方が誰を信じていても私に口を出す権利はない。
問題なのは信じる人の真実です』と。
あんな事を言われは俺も考えざるを得ない。
……とんだ食わせものだよ」
「一応、皇帝の妹で詐欺師の幼馴染み、やってますから」
「考えて、思った。
俺が信じているのは、愛里だ。
蓮二達が、君を信じているように。
その先の真実。愛里の、真実」
見ているものだけが、本物ではない。
真実ではない。
嘘ではなくとも。
事実なだけ。
乾さんはもろ理系の頭だから「見たものしか信じない」って感じだけど。
「たぶん、俺の視点からじゃ、決して見えないと思った。
俺は愛里が好きだ。それは変わらない。
だけど、だからと言って蓮二の言葉を拒絶するのは違うと思う。
だから、もう一回、話したい。
その前に。君からも聞きたい。
君の……舞さんの、見えているものを」
私の名前を呼ぶ時に、乾さんは少しだけ緊張しているようかに見えた。
私も驚いて思わず目を見開いてしまった。
乾さんから名前を呼ばれるとは思わなかった。
これは乾さんが私に。
私達に、心、耳を開いてくれた事だろうか。
「舞、でいいですよ。年上なんですから」
ちょっと笑って見せるとあからさまに驚かれた。
傷付いていいですか?
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