04


仁王 雅治 side

それは、美しい魂だった。
ただの何も知らない世間知らずでもない。
世の中の汚い事も知っているはずなのに、その穢れさえも是と受け止めてしまう程に。
俺はその美しさに惹かれたのだ。

穏やかな寝顔を見つめる。
探せば案外、真田と似ている所もある。

正直な話、舞の自己保存の本能は人としてあまりに薄い。
薄くて、ひどく弱い。
他人を想う気持ちがあんまりに強過ぎるのだ。
だからどうしても自分が一番後回しになってしまう。
無自覚なのが、またいけない。
何度苦しい思いをしても気にしない。
気にならない。
舞は無意識にも意識的にも自分より他者を優先するのだ。
それは生物が生き延びる上で致命的な欠陥だ。
あまにも脆い。
脆すぎる。
それでも舞は生きている。

舞はいざとなれば「身内」の為に他の全てを投げ打つだろう。
その犠牲の最たるものは、己自身。
けれど舞は聡いからそんな事にはさせないよう動く。
だからその余力分、他人でも、目に入って話した事のある人はついつい助けしまい。
本来的に、舞は人を嫌えないのだ。
嫌ってばっかしの俺には、とうていできないなと嘲笑する。

甘い。
本当に。
その優しさは時に残酷だ。
信頼していないわけでもない。
力がないと思っているわけでもない。
それでも手出しさせてくれようとしないのだ。
大切な子が傷ついているのを見て守れと言うのだ。
気高く、純粋な、美しい魂が傷つくのを見ているだけであれと求めるのだ。
今までは舞の意志を汲んで特に手出しをしなかった。
舞の負担にならないようにあまり構わなかった。
気づかれないぐらいのちょっとしたサポートだけをしていた。
けれど、もうやめよう。

舞は昔から妙に大人びていて、泣いている所なんて見た事はない。
一度、小学生の時に泣いた時以来か。
けれど、声はあげなかった。
すぐに泣き止んだ。
舞はここまで追いつめられていたのだ。
それにすぐに気づいてやれなくて、自分自身が腹立たしい。

「……一生、お前だけを愛しとうよ」

そっと額に口づける。
永遠なんて言わない。
幸せにしてあげたいけれど、絶対なんて言えない。
無力感に打ちひしがれるのは俺だって同じ。
曖昧で、不確定な事は言えない。
詐欺師失格だって?
そんなの、舞のためだったらどうでもいい。
だけど。
俺の一生の間、どんな事があっても、舞だけを、愛する。
それだけは約束しよう。
今は、穏やかに眠っていてくれ。
最後にもう一度、頭を撫でて部屋を後にする。

「舞はどうだ?」

部屋の外に何故か集まっていた連中の中で、真田が一番に聞く。
さすがに兄という事か。

「一度起きたけど、また寝たぜよ」
「そう、か。舞は仁王にばっかり本音を漏らすな」
「弦一郎はだから鈍感って言われるのだ。兄と恋人は全然違うに決まってるだろう」
「それで、どうするんです?舞さんのこと、このままにしておくのですか?」

柳生の言葉に、悪どい顔を作る。
赤也が思いっきり引いていたから、後で虐めてやる。

「んなわけなか。谷岡は絶対にゆるさんぜよ。何がなんでも、追い出しちゃる。
 ……もちろん、舞の知らん所でな」

やるぅ、と幸村が口笛を吹いた。
全面戦争といこうじゃないか。
裏の駆け引きで俺に勝てると思うなよ?

side end



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