02
ハルの部屋に連れて行かれ、今度は真っ正面から包み込むように抱きしめられる。
「舞はすぐ無理をするから目が放せん」
「ごめん。でも無理なんて」
「ちっとは甘えんしゃい。舞がそう思うとるように、俺らも舞を守りたい。
そう思っとるなり。舞は自分が思っとるよりずっとずっと俺らに愛されてるんじゃ。
いい加減、自覚して欲しいぜよ」
それが恐いのだ。
精市先輩が言いたい事はそれなのだ。
けれど私は私自身にそこまでの価値があると思えない。
直せ、と言われているのだけど、そう簡単に直るわけないじゃないか。
だって、私はずっとそう生きて来た。
「無理はしなさんな」
ハルはもう一度言う。
こう直接言葉に出すのは、私がきっと気づかない振りをするからだ。
逃げ道を塞ぐなんてハルは酷い。
「少しは辛いもん吐き出さないと身がもたん」
「無理。そんな事できない」
「俺が、聞きたい。舞の本当の気持ち」
なんでこんな事ばっか言うのだ。
誰もいない部屋にわざわざ連れ込んで少しでも言いやすくしたつもりか。
確かにあの空気は嫌いで、苦手で、気持ち悪い。
それでも立海のみんなが大丈夫だから、平気。
だって、所詮、他校の人の事だから。
空気に引きずられただけで。
「舞」
優しく、そっと、包み込むように、私の名前を紡ぐ。
なんでも、許してくれるような、そんな感覚。
「っ、なんで、上手くいかないのかな……!
頑張ってるのに、みんな喧嘩、して。
なんで、そんな事、ばっか。
なんか他の方法がなかったのかって考えて、見つかんなくて。
それで、嫌になる。自分が無力すぎて、嫌になる」
顔をぐりぐりと押し付けて、表情を、見えないようにする。
いくら思いっきりやってもハルの体はびくとも動かなくて。
それがさらに感情の波を荒立たせる。
抑えなきゃ、と思っても、無理で。
ハルはいっつもこうやって私の感情を荒立たせるんだ。
「本当は、みんなの方が大変なのに、何も出来ない。
蓮二先輩だって、涼しい顔してるけど、絶対に傷ついてる。
もう、やだ。何やっても効果ない。
でも、やらなきゃ、みんなもっと傷つく。何も、できないのなんて、嫌。
どうしたら、いい?私、何か間違った事、したかな?
教えてよ、ハル……!!」
これが正しいって誰か教えてくれればいいのに。
これが間違ってなくて、誰も傷つかない方法はないって教えてくれる、絶対の人。
人はそれを神様、なんて呼ぶのだろうか。
そんなのはどうだっていい。
誰か道を教えてくれれば私ま迷わずそこを走っていく。
けど、本当は解っている。
現実はそんな簡単じゃない。
絶対の正解はなくて、みんな迷って、傷ついて、それでも歩いていくんだって。
それを聞いてしまうのは狡い事なんだ。
責任を転嫁するだけの行為なんだ。
そうするのは楽かもしれないけれど、自分の人生を他人に任せてなんかいけない。
ハルは、何も言わずに私の頭をそっと撫でてくれた。
私の、醜さも、全部、受け入れて、いいのだ、と言っているかのように。
私は、前世を含めて、始めて、声を上げて泣いた。
前 次
戻る