my prince様


何度見ても落ち着かない。そう思うのは私が所詮は庶民だからだろうか。
無意味に広く豪奢な廊下を進むと一際、荘厳な扉にたどり着いた。
入室の許可をする声を確認してから、扉を開ける。
机の上に置いてある書類と格闘していたのだろう。
若干の疲れが見え隠れする澄み渡った瞳がへにゃりと笑みを宿した。

「来てもらったばっかりで悪いけど」

そう言って話を始める。任務の依頼だ。
私の所属する風紀財団はボンゴレから独立した存在とはいえ、トップは雲の守護者。幹部だ。
本人は認めてはないが、そそ事実は変わらず、責はどうしてもついて回る。
そこで私の出番。
呼んでもこない委員長に代わり秘書兼参謀の私が行き交渉する。
つまりボンゴレとの橋渡し役だ。彼とは中学から友人だったのもある。
若きボンゴレ]の御代になり数年。ようやくボスらしい貫禄も出てきた。
長い付き合いとしては感慨深い思いだが、きっとそんな気持ちを打ち明ける時は来ないだろう。
彼は、ボンゴレのボスなのだから。
任務を了承。部屋を出ようとして呼び止められた。

「頑張りすぎないでね」
「委員長しだいです」

頑張って、じゃないのがボンゴレらしい。
大変になるのはたいてい委員長の気まぐれだから、保証できない。
私の返事にボンゴレは少し寂しそうに微笑んだ。


「mission start」

任務中の私の役割は司令官である。事前に下調べをして作戦を練るのも仕事の内だが、現場の指揮も私。

「百合、敵に遭遇。戦闘に突入します」
「梅、セキュリティーシステム解除しました」
「竜胆、問題なしです。姐さんのいうとうりバッチリッスよ」
「姐さん言わないで。……全件了解。そのまま進めて下さい」

隊の名前が花なのは委員長が純和風な趣味だから。
というのもあるが、A、とかBだと訳がわからなくても回線乗っ取って操作できてしまうので、それの防止策。
なのだけれど財団の人間はなんというか、不良なので見た目が厳つい。
そんな男達が花の名前を冠すると思うと微妙な気持ちになる。

「委員長。そろそろ出動をお願いします。……委員長?」
「もう入ってる」
「はい?」
「煩い。何度も同じ事言わせる気?」

こ、この気まぐれ男!また勝手に……!私の苦労を水の泡にしてくれて!
けれど相手は腐っても上司なので飲み込む。

「今、何処ですか?」
「さぁ」
「地図見ましたよね?」
「忘れた」
「ばっ……」

言葉を飲み込む。相手は上司。上司だ。こんな性格でも強いし、地図なくてもやってける方向感覚はあるけど!やっぱり……!
このやろっ……!!
興が乗らないと真面目にやらないんだから。その尻拭いは私なのに!
何を言ってもどうせ聞かないのは長い付き合いでわかってる。仕事は中途半端にこなす人じゃない。
あれこれ指示するよりよほど効果的だ。
結果が出れば私は文句はいえない。あぁ、でも、なんだこの虚しさ……。
爽やかな乾いた風が余計に虚しさを増させる。
嘆いても仕方ない。委員長の位置を確認しようとパソコンの画面を見て。

「動くな」

ヒヤリとした感覚が後首にする。
私が参謀な理由。
頭脳労働派だから。
つまり。
私は護身術以外の暴力を持たない。
全く嫌になる。
今日の星座占いは最下位だろうな。
べらんぼうめ。

敵が私に要求するのは情報であったり、委員長であったり。さて相手方の要求は何なのだろか。
あっという間にお縄をちょいだいしながら思う。
だいたい私は闘えない分、用心深いのに警備はどうしたのだろう。セキュリティーシステムもあるのに。

「なんでって顔だな」
「どうやってセキュリティー解除したの」
「外から電気のを立ったからな」
「え、嘘。切ったの?電線を?」

ちょっと待て。電線切るとか。ここと繋がってる電線切ったら民家の電気も通らなくなるけど!?
それにそうしたら君達の所も同じ被害に合うよ!

「同盟ファミリーのシマを荒らして黙っていくわけにはいかねーんだわ」
「それは因果応報」

荒っぽい手段で他のファミリーを潰しておまけに横暴で治安を乱してばっか。
それをボンゴレが見逃すわけない。

「……随分、余裕だな」
「驚いてるけど」

電気の事も。この部屋、電気つけてないしパソコンも充電式だから繋げてないので気がつかなかった。
同盟ファミリーが動くのは予想していた範囲内。だが私の所に来る必然性をあまり感じなかった。
地理的にかなりの迂回が必要だ。挟み撃ちや援護した方が早く効果的である。

「馬鹿の考える事は、わからないって」

お腹に鈍い痛み。殴られたのだ。

「自分の立場わかってるのか」

脅すようにナイフで頬をペチペチと叩く。
睨まれても全然怖くないから。顔が厳ついくせに妙に目がパッチリで可愛いから逆に笑うわ、バカ。

「殺したきゃ殺せば?」

いくら拷問されようが情報を渡さない。味方は死んでも裏切らない。
この世界に入った時からいつでも死ぬ覚悟はある。

「委員長は弱いやつに興味ないの」

捕まった奴をわざわざ助けには来ない。人質としての意味はなさない。

「姐さん!目的地につきましたぜ!」

と。盗られた私の通信機器から委員の声が。

「わかったわ」

極めて冷静に答える。

「おい、雲雀きょ」
「計画どうり、よろしくね」

委員に聞こえないよう声を被せた。すると敵が今度は同じ場所に蹴りをかましてきた。
倒れる音と同時に通信が切れる。聞かれなかっただろうか。

「余計な事しやがって!この女!!」

人質をとった事を伝えそびれた鬱憤を暴力で晴らすとは。人質なら丁寧に扱ってほしい。
絶えない暴力。……懐かしい。
哲ちゃんの幼なじみ故によく不良に絡まれ、ボロボロなのが標準装備だった頃を思いだす。
でも今は痛みの和らげ方やさり気ない防御の仕方を学んだから昔より楽だ。人間成長する。
そうそう。私が委員長と出会ったのは哲ちゃんのおかげだった。
この男の頭に血が登っている間は時間が稼げる。無意味に殴られよりまし。任務終了まで耐えろ。

「あんた、なんか、委員長にかかれば一瞬」
「雲雀だろうがひよこだろうが関係ねぇ!」

あ、頭打った。視界が揺れる。こんな時に脳震盪で倒れてたまるか。強く腕を掴む。
肉体的には屈服しても心までは折られはしまい。
これは私の唯一のプライドで自分を守っているものなのだから。

「どうせ下っ端の癖に」

衝撃がくるのを予想して身を固める。
男が手を振り上げる。

「何してるの?」

涼やかな声が鼓膜を震わせた。

「雲雀、恭弥……!」

入り口に立っている委員長が私を捉えた。
なんでいる。任務はどうした。など色々言いたいが驚きで声にならない。
男は慌てて武器を取り出そうとする。が。

「目障りだよ」

その前にトンファーで一発で即気絶。さすが。

「なんでここにいるんですか」
「もの好きな委員が僕に知らせてくれてね」

聞かれてたか。しかもなんで委員長に知らせたの、馬鹿。

「任務は」

どうした、といいかけてやめる。最初からそうだけどさらに機嫌が悪くなったからだ。

「僕は僕のしたい事だけしかやらないよ」

答えにならない返事。

「君はいつもボロボロだよね。趣味なの?」
「そんなわけないでしょう!」

マゾじゃない。昔から平和主義で痛いのは嫌いなんだから。

「……弱いくせに」

苛つきを隠さない表情。
それでもトンファーで縄を切ってくれるだけ委員長も大人になった。
礼をいい若干痺れる手足を無視して立ち上がる。フラフラするが我慢だ。

「群れもしないし、助けを呼ばなくて、無謀」
「……すいません、以後気をつけます委員長」

ますます急降下。何をまずったのだろう。

「委員長……?」
「葵」
「はい」
「それ」
「……え?」
「そんなふざけた呼び方いつまでしてるの」
「え、どういう」
「僕の名前を呼ぶのをもう三年ぐらい聞いてない」

委員長。と仕事だから公私わけて呼ぶ。でもずっと前は、学生だった時は。
恭弥さん、と。そう言っていた。
でもマフィアはいつどんな時でも上司と部下の関係は消えたりはしない。

「そんなんだから」

軽く肩を押される。怪我だらけ。手足は痺れてる。だからそれだけでもバランスを崩しかけた。
転ぶ直前に支えられる。

「すぐにこうなる」

委員長は無口な部類だ。思った事しかいわないから素直とはいえなくもないが言葉が足りない。

「やり過ぎだよ」
「そんな事は」

だから委員長と付き合う時は言わないところまで汲み取らなくてはならない。
最初は苦労した。
今ではもうそんな事は殆どなく少ない言葉で意志疎通できるようになったのはいつからだったか。

「ずっと気を張り詰めてればいつか倒れるよ」
「私は、弱いから……。一瞬でも甘くなると駄目なんです」
「葵が倒れると業務が差し支えでる。そのぐらいの自己管理も出来ないの」
「すいません」
「それに、葵を屈服させるのは僕なんだから他のやつにやられないでよ」

少し偉そうにいう。独占欲にも似た欲求。あくまでも勝ちたいというのが委員長らしい。
思わず笑みを零すとむっとした委員長が、私の事を持ち上げ横だきに。
こ、これは俗にいう!やむてくれ!

「フラフラな葵に合わせて歩くのは面倒」
「だからって!」
「俵担ぎでもいいけど」

わざとだ、この人!俵担ぎにされたら堪らないから慌てて首に腕を回す。
人一人の重さでもびくともしなく安定している。委員長の体温が心地よい。人肌に触れるのすら久しい。
委員長にいわれるのも当然だ。
けれど。

「恭弥、さん……」

僅かに反応はするけど言葉はない。
委員長は間違ってる。わざわざ屈服しなくとも私は委員長には適わない。
私がなんだかんだ委員長といる理由。
それは、昔から苛められている時に現れて助けてくれたから。
本人は群れてるのが鬱陶しかったからとかそんな理由だろう。
それでも。
誰がなんといおうとも。
私にとって恭弥さんは王子様なのだ。
王子様、なんて我ながら笑っちゃうけど。

「恭弥、さん」
「何」

私は弱い。一度甘くなると際限なく甘やかす。
そしたら私は恭弥さんと一緒にいられなくなる。
だから、こう呼ぶのが精一杯。

「恭弥さん」
「うん」

名前しか言わない私に恭弥さんは律儀に返事をしてくれて。
ごめんなさい。
ありがとう。
回す腕に力を込めた。

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