紫紺色の罠


紫だ。
濃い、紫…紫根に近い色をしている。

「早く食べてよ」

促す声に、箸を持つがそれに手をつけられない。
だいたい何故菓子がこんな紫をしているのだ。
形も可笑しく微妙均衡を保って立っている。
ケーキと言っていたが。
これをケーキと言っていいのかわからない。
何かバックに心なし、煙が見えるような。
いや、実際にはないからこう言ったら失礼だろう。

「これ、材料はいったい何ですか」
「ふふふ〜、食べてからのお楽しみぃ」

にやにやと笑う先輩はまた早く、と促す。
何でも器用にこなすこの人も料理は管轄外なのだろうか。
しかし何でもできるけど料理ができないというのは、
そこが可愛いのだという話を聞いた事があるが……。
大いに否定したい。
一言。
食わされる奴の身にもなってみろと言うやつだ。

「まさか、君、私の作った物は食べないと。 
 そう言いたいの!?」

不良がごとくつっかかってくる。
勘弁して欲しい。
けど相手は先輩。
文句が言えない。
愚かな先輩なら別だがきちんと功績を残し尊敬すべき所はある先輩なのだ。
というかこの人に文句を言った所で効をなすとはとうてい思えない。
かえって疲れると言うのは身にしみている。

「酷い。
 そんな事する子だと思ってなかったのに!!
 いえ、けど無理なら仕方ないよね。
 ごめんね、無理言って……。
 真田君だってきちんと理由があるだろうから
 一瞬でも疑った私を許してね……!」

落ち込んで今にも泣きそうな顔をするものだから慌てて否定した。
この人だって俺の為に作ったのにこんな態度をとった俺にも否があるのだ!

「……本当に?」
「男に二言はありません!!」
「じゃあ食べてね」

とたん笑顔に変わるから騙されたと気づく。

「本当に真田君って単じゅ…コホン。
 素直だよね。
 だからからかいが……失礼、かみました。
 だから、本当に羨ましいよ」

そうだ、この人はそんな人だった…。
しかし言ってしまった以上仕方無い。
意を決して口にその物体を入れる。

「どう?」
「うまい……」

なるほど、紫だったのはサツマイモだったのか。
形はあれだが甘さも控えめで俺でも喰える。

「いやぁ、大変だった。
 こんな微妙な形を作るのは!さすが私。
 我ながら、器用だよね」

そんな所に器用さを発揮しないで欲しいくないのだが。
小さく、溜め息を吐いて、またケーキを口に運んだ




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