温もり


優しい人だった。

気性の穏やかな人だった。

側にいるだけで周りを笑顔にさせる

そんな魅力のある人だった。

あの青空のように。
あの海のように。

包容力のある人だった。

あの人が他人を貶めるような言葉をはいた事を
聞いた事も、見た事もなかった。

だから、彼女の周りはいつも明るかった。

だから、彼女の周りは笑顔が耐えなかった。

それが長倉夏希という人物。


俺にとって特別な彼女の特別に俺がなりたいと願ったのは
いったい何時からだっただろうか。

今日もそして俺は彼女の側に足を運ぶ。


「今日はクッキーを焼いてみたのよ」
「あぁ、旨そうだ」

彼女の家は喫茶店を営んでいる。
繁盛しているとは言いがたいけれど隠れ家みたいな雰囲気はお気に入り。
彼女が焼くお菓子は、よく商品になっている。

「いつもの、頼んでもいいか?」
「オッケー」

俺が足しげく通うようになってわざわざ取り寄せてくれるようになった故郷のコーヒー豆。
懐かしい味がする。

「桑原君がおいしいコーヒーの入れ方教えてくれて本当に助かるよ。
 でもこっちがプロなはずなのに、駄目だよね」
「そんな事、ないんじゃないか?もとから旨かったし……」
「さぁ、今日は何点?」

出されたコーヒー。
口に運ぶと、特有の苦みが口に広がる。

「……七十六点」
「アハハ、微妙!で、どこが難点?」
「蒸らす時間がな……」

あれこれ言いう俺の言葉を真剣に聞く長倉さん。
それから俺が煎れたコーヒーを飲んで嘆息する。

「いつ飲んでもおいしいよね、桑原君の煎れるコーヒー」
「そう言ってくれると俺としても煎れるかいがあるんって物だな」
「いっその事、桑原君が店員になってくれたら良いのに」
「中学生、バイト禁止だぜ」
「知ってるよ。同い年だもん。私はあくまでも家のお手伝い」

朗らかに笑う彼女に笑い返した。
夏希、と奥の方から彼女の両親の呼ぶ声。

「はーい!ごめん、桑原君」
「いや、早く行った方がいいんじゃねぇか」
「うん。じゃあ、ごゆっくり」

去って行く長倉さんの背中を見送ってまた、コーヒーを一口。
ゆったりとした時間にそっと、口を閉じた。
と、そこに扉にくくり付けられて鈴が鳴った。

「ここ、穴場なんですよ」
「へぇ、いい感じの……ってジャッカル!?」

見慣れた、テニス部員の面々。
俺も叫びたい。
なんでお前らが!?

「へぇ、ここジャッカルのお気に入りなんだ。これは良いものを見つけたね」
「幸村……良い笑顔だな」
「まぁね。それで店員さんは?」
「……、今奥に」
「いらっしゃい!あれ、柳生さん」
「こんにちは長倉さん」

鈴の音で再びカウンターに戻ってきた雨宮さんはきょとんとしてる顔をしている。

「お、なかなか。なぁなぁ、名前なんて言うのだ?
 俺は丸井ブン太。そこのハゲの知り合い」
「長倉夏希です」
「なぁ、今度一緒に遊ばねぇ?ほら、ジャッカルと柳生の知り合いなんだろぃ?
 なんか面白い縁だろ」
「あおい、何口説いてるんだよ!」
「いいじゃん、いいじゃん。社交辞令だし」
「良くねぇよ!つーかなんだよ社交辞令って!」

意味わかんねーよ!
あぁ、折角の時間が……!

「やけにつっかるのぉ、ジャッカル。まさか、彼女に気であるんか?」
「な……!」

ニヤニヤ顔の仁王の言葉に詰まる。
そして、その詰まった言葉で十分だったみたいで。
はやし立てる仲間に恐る恐る彼女の顔を見ると真っ赤に顔が染まっている。

「あ、いや、違うんだ」
「何が違うんですか!ほら、ジャッカル先輩!脈ありそうですよ」
「本人の目の前で言うなよ!」
「あの……桑原君?」
「あ、あぁ!何だ!?」
「ふつつか者ですが……」

沈黙。

「おおーーー!ついにジャッカルがに彼女が!」

ついで、仲間達の歓声。
なんでこうなったんだろうか。
色々と予想外すぎるだろ!
溜め息を付きそうになった。
けれど彼女のはにかむような笑顔を見てなんだかどうでもよくなってきた。

「五月蝿い!少しは黙らんかーー!!」

真田の叫びのびっくりした彼女とそっと二人で苦笑いを零した。



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