寂寥
ふわり、と藍色の髪が揺れる。
女の私でもドキッとしてしまうぐらい綺麗な横顔。
「精市……」
他校生の私はなかなか彼に会えなくて。
頭の中で鮮やかに蘇る彼の姿に思いをはせるだけ。
会いたい、なんてどうして言える?
精市はテニスで忙しい。
負担になりたくない。
精市がテニス部で頑張っている姿はとても輝いてるからそれを邪魔したくない。
「そんなに会いたいなら言えば喜ぶと思うけどな」
同級生の宍戸君がそうぼやく。
「だって、無理だよ。
特に用事なんてないのに呼び出すようなしつこい女になりたくない」
「普通は彼女に会いたいって言われれば嬉しいもんだぜ?
そりゃあ、何度もだとしつこいけどそんな事もないし」
男の子の気持ちは男の子が一番解ると思う。
けど、その言葉のどうりに進む勇気もなくて。
「私は臆病者だ……」
「時間、取らせたくないなら自分から行けばいいだろ?」
「立海に?神奈川まで?」
「そ。会わなくても姿だけ見るだけでも違うと思うけどな」
「…うん」
駄目だよ、宍戸君。
それだけだと、きっと…。
翌日。
結局、立海に来てしまった。
早めに学校から出て途中で私服に着替えて。
テニスコートは応援の人でほとんど見えない。
あの人波の中に入る気もしなくて少し遠くからテニスコートを見る。
精市は直ぐ、見つかった。
肩にジャージを羽織って仁王立ちでテニス部員に激を飛ばしている。
「やっぱり、カッコいい…」
テニスに打ち込む時の精市は本当に楽しそうで。
精市は優しいから呼べばきっと傍に来てくれる。
でも、これを見ると邪魔したくなくて。
でも、会いたい気持ちが膨らんでゆくばっかりで。
「精市……」
思わず泣きそうになって踵を返して立海を出た。
「うぇ……ヒック……」
涙が溢れて止まらない。
近くの公園までどうにか保った涙腺はここに来て崩壊してしまった。
誰もいないのが唯一の幸いか。
「精市に会いたいよぉ……」
「うん、俺も会いたかった」
後ろから声がして思わず振り返ると精市が困ったような顔で立っていた。
「なんで、」
「やっぱり泣いてた。夏希は寂しがり屋だから」
すっと、指で私の涙を拭う。
「精市、部活の途中なのに」
「夏希が泣きそうな顔で走り去ったの見たから真田に押し付けて追いかけてきちゃった」
ごめんなさい、真田さん。
「……迷惑だったよね」
「迷惑なんかじゃないさ。俺も会いたかったって言ったろう?」
ぎゅう、と抱きしめてくれて精市の優しさに
涙がもっともっと溢れ出してきて。
「泣かないで」
「む、り……だよ……」
「会いに行けなくてごめん。好きな時に、幾らでも俺の所にきていいから」
「でも」
「一人で泣いている思うと苦しい。こうやって夏希の涙を拭えないから」
優しく笑ってそういう精市はやっぱり優しい。
「キス、して……。それで、泣き止めるから」
「ん」
触れるだけのキスは私の涙で少しだけしょっぱい。
「愛してる」
精市の言葉が
精市の行動が
全て私の心に染み渡って私を安心してさせてくれる。
「私も、愛してるよ」
愛しています
貴方を
貴方を取り巻く全てを
愛しています
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