時限爆弾


 ――柳蓮二が気づくまであと二十分

本日はバレンタインである。
269年にローマ皇帝の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する記念日。
主に西方教会の広がる地域における伝承だ。
最近は友チョコなんてものがある。
もっとも、日本がチョコをあげるのは日本の企業のせいなのだが。
俺はバレンタインには対して興味はない。
甘い物は嫌いというわけではない。
その反対でもないが。
そういう浮かれたイベントにさして興味がないというだけである。

うちの学校ではテニス部にチョコが集中する。
主に犠牲者は丸井、精市、仁王。
つまり学校におけて人気のあるトップスリーというわけだ。
丸井は甘いのが好きだし、精市は律儀に笑顔で貰ってくれる。
仁王は……甘いのが嫌いだ。
食さないわけではないがほとんど食べない。
それでもあげたいという心情のほうが上なのだろう。
加え、甘いのが嫌いではあるが故にあげないなんて人がいるはずだ。
それを加えるともっと人気は上だろうと考える。

それぞれ仲間がもらったチョコの数を統計していく。
バレンタインよりデータだ。

 ――柳蓮二が気づくまであと十分。

「今年は特に凄いよね」
「あぁ。俺達が引退して時間ができたからな。もしかしてと思うのだろう」

三年のバレンタインはそうなるだろうとあるかじめ予想していた。

「実際あれだよね。くれるのは嬉しいと思うよ?けど」
「貰うなら自分が好きな人からが欲しいと、お前は言う。
 そういえば精市。お前は彼女からもらったのか?」
「勿論。そういう蓮二はどうなんだい」
「そんな人がいると思うか」
「さぁね。蓮二は仁王と同じで秘密主義だからわからないよ」
「それは精市もだろう。あと柳生も」

一筋縄ではいかない連中ばかりである。
ふふっと笑う精市はなんだか楽しんでいるかのようである。

 ――柳蓮二が気がつくまであと一分。

「……参謀、いるか?」
「いらない」
「あーもう、ブンちゃんどこにいったぜよ!」
「さぁな。教室巡りでもしているんじゃないか?」
「、あんのブタめ!」

貰ったチョコを丸井に押し付ける仁王。
どうやら丸井がいなくて苛ついているみたいである。
普段は仁王の悪戯で丸井が仁王を追いかけるいる。
しかしこの時ばかりは立場が逆転していてなかなかに面白い。

 ――柳蓮二が気がつくまであと三十秒。

「だったら、仁王。丸井の机に入れておけばどうだ」
「そうしたいのはやまやまなんじゃが柳生がいるなり」
「……ああ」

真面目な柳生が貰ったものを他人にあげるには言語道断だと言っていた。
食べられなくて処理するなら仕方無いといえどもきちんと持って帰れとも。
しかし仁王は持って帰るその労力すら嫌なのだろう。
もっとも柳生は仁王に甘いので代りに持ってあげる確率七十%だ。

 ――柳蓮二が気がつくまであと十秒。

「バレンタインが無くなってしまえばいいんじゃ」
「世のモテない男と同意見だが、状況が違うだけに嫌みに聞こえるな」
「世の中は不条理ぜよ。欲しい奴が貰えずいらない奴が貰う事が多いなり」
「がっつくような男は人気が出ないと言う事だな」

 ――五秒

「今年は部活がないのが恨めしい」
「引退したからな」

 ――四秒

「やっぱり丸井、探してくるぜよ」

 ――三秒

「どこか当てでもあるのか」

 ――二秒

「丸井の事じゃきに、時折自分の机にチョコを置きに戻るはずじゃ」

 ――一秒

そうか、と頷こうとしたら、ジリリリと軽やかな音が二人の間に鳴り響いた。

「……ピヨ?目覚まし、時計?」

音の発生源を探してみるとどうやら自分のバッグで。
鞄の中にいつの間にか入っていたみたいだ。
赤い目覚まし時計を中から取り出すと仁王が不審そうに、けれど面白そうな顔をした。

「なんじゃ、参謀は学校に目覚まし時計を持ってきてたのか」
「俺のじゃない」

こんな事をできる、かつ、やる人物は一人しかいない。

「悪いが用事ができた」
「そのようじゃの」

チン、と時計を止めるとその場から踵を返した。


「そろそろ、来る頃だと思ったよ」

うっすらと口元の笑みを乗せた彼女。

「何のようだ」
「やだなー、蓮二。こんな日に呼ぶ理由なんて一つしかないじゃない」

鞄をあさって、四角の箱をさし出してくる。
中身は言わずとも、だ。

「友チョコと本命チョコ、どっちがいい?」
「そうだな……。折角もらうなら」

 お前の心の籠った方がもらいたいのだが。

そうあえて耳元でいってやったら顔を赤く染めて箱をずいと押し付ける。

「キザ」
「何とでも言え」

まったく今日は貰えないかと思ったではないか。
けれど真っ赤になった彼女を見れて、待ったかいがあったというものだ。
箱を受け取る。

「ありがたく頂こう」
「ありがたく食べてね」
「勿論だ」

本命なのだろう?と聞いて、すねたように横を向いた彼女にこっそりと笑った。


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