月白の涙


日が沈んだ。
血のような紅をした空のその先。
僅かに地平線の所あたりが白んでいた。
月が今にも出ようとしている。
そっと、隣に居る人を盗み見た。
顎から首筋へのラインが綺麗で
街灯に照らされた肌は白く艶めいている。
知的すぎるその横顔に何を考えているのかなんて色はまったく伺えない。

「日、くれちゃったね」

あぁ、と端的に返事を返す蓮二は何を考えているのだろうか。
人気のいない公園はただでさえ寂しいのに暗闇に浸食され始めて不気味さを醸し出していた。
ただ、何もせずにここにいた。
何もしない、と言う事は蓮二にとっては忌むべきことなのだろうに私も、蓮二もそこから動こうとしないのだ。

帰りがたい。

ただその気持ちが私の心の中を占めていた。
彼もそうなのだろうか。
わからない。

離れるのが怖いと思うようになったのは私が弱くなったからのだろうか。
けれど涙は流す事は決してしないだろう。
私も蓮二もそういう感情表現は苦手だったから。
苦手だからどこまでも不器用なのだろう。

遠くでノイズ音が聞こえた気がした。
ザザザザ、とテレビから聞こえてくる。
砂嵐の音のような音。
耳鳴りだろうか。

ふと、空が明るくなった。
赤から青へ。
寒かった空気も初夏の暖かい空気に。

『……好き。柳君が、好き』

稚拙な私の言葉。
あぁ、これは私と蓮二の始まりの言葉。
何だこれは。
なんでこんな物が、見える。
小さく頷く蓮二は淡く微笑んでいる。
それで、俺もだ、と。
ただ蓮二と心を通い合わせ隣を歩くだけで嬉しかったのにすっかり冷えきってしまって。

空が再び、暗くなる。
……夢?

「蓮二、私は、悲しいよ」

いきなりだったから驚いたように私を見た。
悲しいよ、ともう一度。
なぜなんだろう。
本当に伝えたい言葉は拙く聞こえる。

「……すまない」
「謝っても」
「……俺はどうやら臆病になっているようだ。失うのを恐れて」

同じ事を思っていた事に私は驚きを隠せなかった。

「蓮二……好きだよ。好き。蓮二の事が、好き」

気づけば。同じ事を言っていて。
蓮二も気づいているのだろう。

「……夜は色々な物を覆い隠す。
 だから、その悲しい気持ちも覆い隠せる。
 例えばあの月がお前の為に泣いている」
「月が?」
「そうだ。涙は、時折美しく描写されるからな。
 だから、あの白さはお前の涙の代わりだ」

だから、悲しまないでくれ、と呟いた。
好きだから、苦しいんだ。
だけれど、別れたらもっと苦しいと言った彼に頷いた。


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