04


指定された時間に昇降口に足を運ぶ。
若林さんはまだきていなかったらしく人の邪魔にならないように端によった。
ちょうど、そこからは大きな桜の木が見えるのだ。
花が咲くのは流石にまだ先だけれど。
咲こう、咲こうと蕾を膨らませ始めている。
春という存在がちらりと見え始めていてわずかに、心があったかくなる。

「柳生」
「大野さん」

声をかけてきたのは大野 渚さん。
同じ風紀委員の方で、クラスは違うものの同学年だ。

「詩織の代理なの」
「え、そうなんですか?」

用事が出来たのだろうか。
それとも、わざと。
あえて変えてもらったとか。
それは大野さんが手紙の差出人だから?

いけない、と頭の中でその考えを打つ消した。

可能性を考えるのは大切だけれど私はそうと思い込んだらなかなか直せない。
確定してはいけない。
たんなる偶然かもしれないのに。
探し出すその相手がなかなか手強そうだから考え過ぎる。
しかしそうするとかえって間違える。
あくまで、可能性。
それを忘れてはいけない。

「そうですか。では案内を頼んでも宜しいですか?」
「ええ」

すたすたと歩き始めた彼女の横に並ぶ。
真っ直ぐに迷い無く歩く姿は凛々しい。
彼女の立ち姿は姿勢が正しくて好感が持てる。
私も意識はしているからこのようになりたいと思える。
大野さんには、確か一人っ子だったと記憶している。
ならばこのように幼稚園に行くというのは手間にしかならないだろうに。
その疑問を口に出すと、そうでもないと返答がきた。

「詩織は丸井の所と同じ六歳の妹がいるの。
 詩織が無理だから、結局は。それに子供は嫌いじゃない」
「良かったです」
「それに、私の方が良かったでしょう。知らない子よりは」

ほとんど話した事がない方とこのように共に歩くというのはなかなかに難しい。
共有の話題や、趣味がまずわからない。
それで沈黙がおりてしまう事もある。

「私は、そうとは思いませんよ。人と接すると新しい事に気づける事が多いですから」
「ポジティヴ」
「よく言われます」

うじうじするのが性に合わないみたいなのだ。
どうせ悩むなら健全的な事で悩みたい。
仁王君は、そもそも悩む事を放棄するだろうと考えて心の中で笑った。
それはそれで一種のポジティブのあり方なのだろう。
それでいて巧妙に問題を起こさないから本当に抜け目がない。

「そういえば、私にも妹がいますよ。
 小学生なので生意気盛りでして」
「その年代はそんなものでしょ。
 けど、生意気な柳生は想像できないかも」
「アハハ、今振り返ると我が侭もやってましたよ」
「へぇ、意外」

勘違いされやすい所ではあるけれど。
そうありたいと思うだけで、そうあるわけではないのだから。
けれどそう思って下さるのだから嬉しいものだ。

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