03


丸井君の登校時間は遅い。
面倒見の良いお兄さんである丸井君が弟達の世話をしているからだ。
遅刻すらしないものの早いとは到底言えない。
だから用事は早めに終わらせなければ。
頭の中でどう会話を進めるかの算段をたてながらB組に足を踏み入れた。
ほとんどの人が登校している教室は活気に溢れている。

「柳生が来るなんて珍しいの」

背後からの声に体ごと振り向く。
おはようさん、と仁王君が欠伸まじりに言った。
たった今登校したらしくバックを持っている。
彼もまた、登校は遅い。
しかも遅刻する事もままあるのだ。
どうにかして欲しい物である。

「おはうようございます、仁王君。
 少し丸井君に用事があしまして」
「ブンちゃんにね。今は無理じゃなか」
「というと?」
「あいつ、今忙しそいなり。ほら」

すいと指差した先には机に座って何やら懸命に作っている姿が。
丸井君は器用だから切り紙なんてとてもこっている。
恐らくはその手紙の内容である「悩み事」なのだろう。

「いえ、その事に関してですので」
「そうなん?一体どこで仕入れた情報なのやら」
「ちょっと、色々とありまして」
「にしても本当にご苦労様なり。
 弟の誕生日パーティーなんて。俺はんなもんやった事もない」

誕生日パーティー。
成る程、なら作っているのはその飾り付け。
仁王君に関しては自宅でそういうのをやるのを好かないのだから当然だろう。
もっともこの程度は軽口なのでそうですか、と相槌を打つだけにとどめる。

「丸井君」

とどめて、私は丸井君に近づいた。
顔をあげた丸井君の瞳に私の顔が映る。
自分の顔というのは私自身あまり好いていない。
けれどここで目をそらすのも失礼だ。

「あぁ、来たか。思ったより、早かったな」
「はい?どういう事ですか」
「悪いけど言えないんだ」

表情にこそ出てないけれど、楽しそうな声音である。
恐らく、だけれど私が訪ねる事を知っていたのだろう。

「手紙の差出人」によって。

「放課後、開いてるか?」
「ええ、開いていますけれど」
「わりぃけど、俺の弟を幼稚園まで迎えに行ってくれないか?」
「構いませんが、私はその幼稚園の場所を知りません」
「それは大丈夫だって。若林が案内してくれるからよぃ」

若林詩織さん。
存じ上げてはいるがたいして親しいわけでもない。
仁王君とは、親しいらしいけれども。
教室の片隅で本を読んでいる若林さんを邪魔している仁王君を見る。
仁王君と親しい方ならばきっと良い方に違いない。
この機会に知合ってみるのも悪くない。

「わかりました」
「放課後、昇降口で待ち合わせって伝えておくからよ」
「助かります」

丁度、予鈴がなったので帰らなければならない。
丸井君から「差出人」について情報を聞き出したかったのに。
いや、これも狙ってなのかもしれない。
そうするとかなりの強敵だ。
笑って、アデューと挨拶して教室から出て行った。

出て行く直前、若林さんと視線があった気がした。

 

|

戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -