終わり


私は「彼女」を、呼出した。

屋上に。

私が屋上に行った時には既にそこにいて、ちょこんと座って空を見上げていた。
背中を向けていた彼女は私が来たのを感じたのか振り向く。

「何のよう?」
「私に手紙を出していたのは貴方ですね?
 ……若林詩織さん?」

彼女、若林詩織さんはにっこりと笑う。

「理由は?」
「理由ですか。そうですね……」

候補は三人。
これは話に絡んで来た「女性」でもある。
大野 渚さん。
片桐 江梨花さん。
そして、若林 詩織さん。

同学年の女性。
風紀、美化、図書委員のどれかで。
テニス部の誰かとは親しい間柄。

まず丸井君の件。
若林さんの妹さんという存在は必須だった。
だからまず若林さんが「差出人」もしくは「協力者」だと思った。
だから少なからず、彼女は必要だと。

宝探し。
これは、切原君の依頼だった。
接触は「知り合い」からの紹介、だと。
よく叱られていたと言われていた。
切原君は遅刻癖がある。ならば風紀委員ではないか。
ならば、必然、大野さんは消える。
本当はこれは口止めされてたから考えないことにしていた。
しかし私が情報を得ようと質問する事はわかっていたはずだ。
なら口を滑らす可能性、もしくは聞き出してしまう可能性は考えられた。
単純な切原君が隠しきれるわけもないのだ。
だからこれはきっと確信犯である。
また、宝探しによりテニス部と誰か親しいという暗示もあった。

最後。
「妹」という存在。
それから、「姉」に教わった。
これは確実に繋がっている。
「差出人」は問題を出すにあたってなるべくテニス部員との関わりを作ろうと思っていたはずだ。
問題は無理矢理は作らない。
人助けである。
そうするなら、普段から気をつけて接点を作るしかないだろう。
また真田君本を図書室にに借りに行った。
手伝った、なんて自然にできるのは図書委員の方ぐらいだ。
それから方が柳君が知合いであること。
親しくはない。顔見知り程度だと柳君は言っていた。
クラスメイトなら柳君はきっと、既にデータを取っていただろう。
だから少なくても柳君と自然に接点を持っていて、なおかつデータを取りにくい立ち位置。
これも図書委員で、よく顔を会わせているならわかる。

恐らく、仁王君が協力していたと思う。
テニス部の把握。
それから宝探しで寒いにも関わらず屋上にいたのはわかっていたからだ。
一番テニス部で把握が難しい仁王君だが、彼がそっち側なら問題はない。
私は仁王君が若林さんと親しくしていたのを一度、見た事がある。
それも今思えば計算の上なのだろう。

「それに本をよく出していたので。本好きだけでは特定できません。
 それなのに多用する理由を考えて。きっと貴方だろうと。
 まぁ……結局は、後から考えてみるとそうだったでだけですよ。
 ふと、閃いて、思い返すとですから運が良かっただけです」

パチパチ、と若林さんは拍手をした。

「さすがミステリ好きだね。うん、私がそうだよ。手紙を出したのは私。
 手紙は放課後、委員会の帰りに入れたの。柳生君が早く帰る日を想定しながらね。
 渚が協力者。片桐さんはそうでもないかな。風紀委員と美化委員との情報は共有してる事が多いから。
 わざわざ協力してもらう必要はなかったんだ。因みに提案者は仁王君だよ。
 こうすれば、いいって教えてくれたの。彼が、一番、柳生君の事を知ってるからね」
「……理由を伺いしても?」
「なんでだと思う?」

私の直ぐ側、体を少しでも動かせば触れてしまうほど側にきて、じっと私のことを見る。

「それは、私の親切の理由を知りたくて、ではありませんか?」
「うん。そうだけど、それは、建前で、小さな疑問で、本当は、もっと違う」
「……わかり、ません」
「それはね」

貴方の興味を惹きたかったから、こんな回りくどいことをしたの。

そう、言った彼女に目が丸くなった。
これは、まるで。
あぁ、けれどしかしなんて甘美な響きなのだろうと思ってしまった。
衝動的な行動なんて、忌むべきことなのに、私は、思わず、彼女を抱きしめてしまいたくなってしまった。

こんな事を言えば、笑うだろうか。
姿も、まともに話したこともなかったのに。
私は。
彼女に恋をしてしまっていたのだ。
それでも。

「私は貴方が好きです」

そう言えば、彼女は艶やかな笑みを浮かべて瞳を閉じた。

end.

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