05


部活に顔を出している真田君の姿を遠く見つめる。
それを見ると今までと変わらない光景が思い浮かぶ。
放課後の部活の練習風景を外から聞くというのは不思議と寂しい。
その寂しい風景の一部にいた私は当時、そんな事は思わなかった。
練習に集中していたからだろうが。
……いや、これはたんなる懐古じみた感傷か。
全国に関しては私は試合にこそ出なかった。
それでも心は彼らと共に戦っていたのだ。
だから、これはきっと。

「柳生」
「お疲れさまです、真田君」
「用があるのなら遠慮する必要もなかったぞ?」
「私が見ていたかったのです」

そう答えるとテニスコートから出て来た真田君は帽子をかぶり直した。

「それで用とは何だ」
「この前、栞を買ったでしょう?柳君に」
「なぜ蓮二だと知っているのだ」
「その真田君が落とした栞を私が拾ったのですよ」
「それは……済まなかったな」
「いえ。それで真田君は、以前御婦人を助けた事はございませんか?」

記憶を掘り返すように上に視線をやる真田君。
駅で、かなり歳を召された方だと付け加えたら思い出したようで、一つ頷く。

「あったな。腰を痛めていたので手を貸した」
「やはり。良かったです。その方の孫の人がお礼を言いたいと言っていまして」
「そんなわざわざ言われることでもない」
「そう仰らないで下さい」
「しかしだな」

真田君の性格を思えば当然の返答だ。
しかしお礼を言いたいという彼女の気持ちを汲んであげたい。

「そうおっしゃらずに。私の顔を立てて。ね?」

笑顔で言えば渋々、頷いてくれ。

「では、私はその方、谷岡さんにお知らせしますので。
 真田君のお時間は問題ないですか?」
「問題ない」
「では、そのように」


谷岡さんに連絡をして前回行った喫茶店で落ち合った。
何度もお礼を言われしかもお礼としてハンカチを渡されて。
真田君は始終、礼は受け取れないと言っていたけれど最終的には受け取っていた。

「柳生さん、ありがとうございます」

別れ際、谷岡さんにお礼を言われてゆっくりかぶりを振った。

「いえ、いいんです。私には私の事情があって貴女を手伝った。
 ですからお礼を言われる理由なんてありませんよ。真田君と違ってね」
「それでも嬉しかったから言うんです。
 事情と言ってもそこまでできるのは柳生さんだからでしょうし。
 友人もそう言っていました」
「そう、ですか」
「渡すように言われた手紙です」

淡いグレーの手紙を受け取る。

「確かに。では谷岡さん、気をつけてお帰り下さいね」
「はい、ありがとうございます。……あの、また連絡してもいいですか?」
「はい?」
「あ、相談とかじゃなくてまたお話したいです。
 こうやって会えたのも何かの縁ですし、あの友人が興味をもった貴方と私も仲良くなりたいんです」
「……そう、ですね。お持ちしています」

谷岡さんが頭を下げて人ごみの中に消えて行く。
知らない彼女が繋げた縁、か。

「帰るか、柳生」
「ええ」

こうやって日々新しいものができ、そして過去になっていく。
過去になっていくのは寂しくはある。
けれど過去は未来なのだ。
寂しい。
けれど、私達は毎日を進み、生きている。
それはとても日々を鮮やかにしてくれているのだ。

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