06


テニスボールだ。
手紙の中にテニスボールの写真がある。
ボールの形にそって丸く切られている。
それからその周りを線で囲ってあった。
きちんと定規を使ってある線は几帳面さが出ていて、好感が持てる。
文字も何もない。
これだけで推理しろと言う事か。
残り、幸村君と桑原君。それに切原君。
テニスボールではどちらか推理なんてできはしない。

「問題は、この線ですね」

呟いて、眼鏡をくいとあげた。
考え込む時の癖だ、と仁王君に指摘された事があった。
しかし癖というのは自覚していてもなかなか直らないもの。
悪い事なら直す必要もあるだろうが、そうではなければ直す必要性を感じない。
癖、はその人の生き方が反映されているのではないかと思う。
だから直すつもりは今の所、ない。
そういえばこの手紙にはないけれど「差出人」はわずかに文字が右に上がる癖がある。
女性らしい繊細な文字が見られないのは少し寂しいが、こういう事もあるだろう。
次回をお楽しみに!という声が脳内をよぎって笑いそうになってしまった。
とりあえず、重要なのは線。
色は普通の黒だ。
意味はないだろう。
形が重要という事か。
四角に入ったボール。
箱?
ボールをいれた、箱。
箱……。
物を箱に入れる時は、保管する事が多い。
あとは飾る時だがテニスボールを飾ると言う事もない。
部活用のボールを保管しているのは倉庫だ。
あ、と。

「桑原君、ですね」

彼のよく居る場所は資料室、職員室。
その彼が頼み事を受けて倉庫に行く事も多い。
お人好しの彼らしい行動範囲である。
まだまだ掃除をしている人で教室内は賑わっている。
時間制限が気になるものの風紀委員である以上、そして性格上、廊下を走るわけにはいかない。
外に出たら全力で走ってどれぐらい時間が稼げるだろうか。
部活をやっていた時よりも。自主練をしていても、なまった体がなんとももどかしい。
途中、走っていく私を不思議そうにみる人を横目に、倉庫を開けた。

「桑原君」
「……柳生?」

きょとんとした表情である。
その手には何故か、野球のボールが。

「なんだ、柳生も何か頼まれたのか?」
「桑原君程、私は人に頼み事を受けないのですよ」
「柳生は率先してやってるからな。つーか、なんか嬉しくないな、その言い方」
「何を言っているのですか。私、桑原君ぐらい人のいい方は知りませんよ」
「あー……、お人好しって事だよな。でも」
「どうかなさったのですか?」
「お人好しって本音がわかんねぇって言われた事があってな。随分前だけど。
 そんなつもりはなかったんだけどよ、難しいなやっぱ」

困ったように笑う桑原君。
何があったのだろうか。

「それは誰に?」
「ブン太。小学校の時に」
「桑原君は優しいですから強く自己主張をしないからでしょう。
 言ってくれないと不安になる時もあったのでしょうね」
「理解しているんだけどな。だからどうもお人好しって、褒め言葉にきこえねーんだよ、俺」
「それは違いますよ。桑原君の長所はそこなんですから」
「それを取ると何もなくなる……」
「桑原君」
「冗談だ。これ言うとブン太が不機嫌になる」
「当然ですよ」

何も桑原君の長所はそこだけではないのだ。
丸井君が友人思いな方だからそんな事をいったら怒るなんて目に浮かぶようである。

「所で、桑原君は、その野球のボールはどうするのですか?」
「最近、野球のボールがいくつか無くなったて聞いて。
 探してたんだよ。そしたらうちの部活の所に混ざってて、発掘の最中なんだ」
「手伝います」
「いいのか?サンキュ」

テニスボールの籠にはちょうど用事がある。
残りの数を聞いて、桑原君がまだ手をつけていない籠の中に手を突っ込む。
黄色の中に白色だし、慣れ親しんだボールの感触。
違う物は直ぐにわかる。
寒い倉庫の中はさすがに手がかじかむけれど根気よく丁寧に籠の中を調べていく。

「……やはり」

野球のボールに貼付けられた手紙。
手紙を読んでみたい衝動にかられる。
しかし、そんなのは失礼だ。
ルール違反である。
忍耐だ。
真田君みたいに。
忍耐あるのみ!
心頭滅却すればまた火も涼し!

「桑原君」

にっこりと笑って手紙を渡す。
何故、顔が引きつっているのだろう。
手紙を受け取って桑原君は中身を読んで、笑って、それで慌てて私を見る。

「どうかなさいましたか?」
「あ、いや、なんでもない、です。もう数はおかげで揃ったし、行っていいぜ、いや、いいです」
「……本当にどうかなさいました?」
「本当になんでもねぇよ。最後にはわかると思うし、な」
「そうですか。それは楽しみです」

少し心が浮上したのを感じて微笑む。
それで何故、桑原君は溜め息をつくのだろう?
首を捻りながら促されて、倉庫を後にした

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