05


筑波嶺の 嶺より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる 

今度は百人一首である。
結局、丸井君のケーキ作りを手伝わせていただいので放課後になった。
その分考える時間はあるという物だ。
百人一首の現代語訳はこうだ。
筑波の嶺から流れてくる男女川という川は最初はわずかですが、 今では深い淵となっています。
同じように私の貴方に対する恋心も今では、最初のころに比べるとこんなにも深く深くなっています。どうかわかってください。
そういう内容の恋の歌である。
どうも恋文であるというのに照れてしまう。
深い意味はないと思うが……。
和歌、という事は思い浮かべるのは柳君に、真田君。
柳君は終わったとみなすべきでだけれど真田君にはどうも「恋」の二文字は連想できない。
まさか真田君を「差出人」が好きなんて事でもあるまい。
意味がないし、そんな事を私が知っているわけがないのだ。
恋、告白ならばジンクスがあるあの告白スポットはどうだろうか。
時間を見て若干、駆け足でその場に行ってみると。

「あら、柳生」

大野さんが涼しい顔で立っている。
もしかして外れだったのか。
にしてもよく彼女と会う日である。

「こんな所でお会いすると思いませんでした」
「まぁ、ね。ジンクス云々でここにいるのだけど」

あぁ、という事は告白だろうか。
顔を見る限り断ったのだろう。
告白して断られて、でも受け入れてでもなさそうだ。
それに大野さんは綺麗な方だから男性にもてるだろう。
場所はジンクスに頼ってというべきか。
ジンクスというか何かの言われは何やらロマンがありそうで心そそる。

「そういえば、知ってる?」
「何をですか?」
「ここの花壇は水道が遠いから、小さなため池を作ったんだって」

指さされた先にはコンクリートでできた簡素な物ができた、ため池があった。

「女子が水の運ぶのが辛いっていったらしいのよ。
 美化委員という仕事柄か、女子も多いから意見が通ったというか。
 わざわざ水道は引けないから雨で溜めるんだけど、始めは手作業で水を溜める事になって。
 男手が少ないからって、わざわざ真田が手伝ったそうよ」

その様子を思い出したのか溜め息をついた大野さん。
溜め息がよく似合う方である。

「真田が何を勘違いしたのか、というか水道をそうやって溜めるのは良くない言い出してね。
 それに水道水より自然の水が草花にもいいとか言い出して近くの川の水を持ってきたの」
「それはそれは……」
「まじめというかなんと言うか。そうそう、その水の一部を和室の花瓶に入れたと言ってたけれど」

かちり、とピースがはまった。
だから和歌で、川であるのだ。
話の流れを考える以上、和室にある花瓶。

「江梨花は笑ってたけれどのんきでいいわよね」
「片桐さん、ですか?」
「そう。あの子は美化委員だしね」

この情報は美化委員か、その友人ぐらいしか知らないだろう。
また、片桐さん、か。

「すいません、用を思い出しのでこれで、アデュー」

走って和室へ。
中では真田君が書道をたしなんでいた。
周囲を見渡すものの、花瓶は見当たらない。

「どうかしたのか、柳生。そんなに慌てて」
「あの、花瓶を知りませんか?真田君が川で汲んだ水を入れた」
「あれか?あれがどうしのか」
「いえ、ちょっと」
「柳生の事だから変な事はないと思うが……。
 あの花瓶は水屋に置いてある」
「ありがとうございます」

言われるまま水屋に行くと茶色の落ち着いた色彩の花瓶があった。
そして、花瓶をおもしにしてあるかのように手紙が。
さて、真田君に渡さなければ。

「真田君」
「ん?どうした。見つからなかったのか?」
「見つかりました。これを」

手紙を渡す。
と、あの真田君まで優しく笑うのだ。
あぁやはり気になる。
残り、三人。
幸村君か、桑原君。それから切原君。
それをクリアすれば私も知れるのだろうか。




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