03


こんな夢を見た。
壁を壊し続ける夢だ。
壁は巨大でしかも三つもある。
しかし決して挫ける事なく壁と相対し続ける。
そのうちに、日が東から出た。
大きな赤い日であった。
それがやがて西へ落ちた。
赤いまんまでのっと落ちて行った。
一つと自分は勘定した。
削っている間に日が昇りまた沈みしばらくするとまた唐紅の天道がのそりと上って来た。
そうして黙って沈んでしまった。
二つとまた勘定した。
自分はこう云う風に一つ二つと勘定して行くうちに、赤い日をいくつ見たか分らない。
勘定しても、勘定しても、しつくせないほど赤い日が頭の上を通り越して行った。
どのぐらい時間がたったのかわからない。
しかしそれでも削っていくとそしてある日、気がつくと自分が壁となっていた。
自分は誰かに削られようとも決して壊れないだろう。
何故だか、自分は確信した。

手紙の内容はこれだけ。
昼まで間に考えてみた所、これは「夢十夜」のパロディみたいな物ではないだろうか。
冒頭の「こんな夢を見た」は同じである。
そして日がのぼり、落ちて、も第一夜と同じ。
内容に差はあれど。
ならば図書室に行くのが自然と言うもの。
私の好みはミステリーではあるものの図書室にはよく行く。
だからの選択だろうか。
そこまで知っている相手。
こっそり観察されていたと思うとなんだかこそばゆい。
昼食後、用事があると伝え図書室へ。
昼といえどここは心地よい静寂を保っている。
純文学の棚で夢十夜を見て見るけれど特になにもない。
そこまで単純ではなかったか。
顎に手をつき考えをめぐらす。
と、柳君の姿が書庫の扉の窓から見えた。
彼も用事があると言っていたが、もしかして。

「柳君」

書庫に入り、声をかけると読んでいた本から視線をあげた。

「柳生、どうした。用事は終わったのか」
「それがちょっと……。柳君はどうなのですか?」
「俺は終わっている」
「そうですか。あの、尋ねたい事があるのですけれど」
「なんだ、言ってみろ」
「柳君は漱石の夢十夜を知っていますよね。
 純文学の棚にある以外で夢十夜がある場所を知っていませんか?」

自分よりここを知り尽くしている彼である。
おまけに漱石は彼の好きな作家。
彼がここに居る事は偶然ではない。
仁王君と同じように。
柳君はひょいと器用に片方の眉を上げてから視線を机に向ける。
彼の前には古い本がいくつか置いてある。

「俺が持っているが」
「すいません、見てもいいですか?」
「あぁ」

上から二つ目にあったそれの中身を確認すると封筒が挟んであった。
中身を確認して手紙が二つある内の、柳君宛の手紙を手渡す。
もう一つは、私の物だ。
手紙を受け取った柳君は少し微笑んだ。

「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない」
「それで柳君。この本は誰から?」
「片桐であり若林でもある」
「二人からですか?」
「正しくは違うがな」

柳君の言う事には。
古くなってしまい図書室では貸せなくなる物がある。
しかし個人で持つぶんには可能で。
だから図書室常連の生徒にあげる事がある。
私もそれには経験があった事だ。
数日前。
古くなったこの本をいらないかと図書委員である若林さんが話を持ちかけてきたそうだ。
柳君は承諾。
最後の貸し出し人である片桐 江梨花さんから直接受け取ったという事らしい。
という事は手紙を差し込む事ができたのは片桐さんだけという事。

「柳生。これの用事は終わったみたいだな」
「柳君はこれだけでわかるのですか?」
「粗方の想像はな。これで何人目だ」
「流石ですね。これで柳君を含めて二人目です」
「急げよ。タイムリミットは終礼から一時間だからな」

急に時間制限できた。
制限を加えてきたか。
それは大変ですね、と言いながら微笑んだ。

「楽しそうだな」
「えぇ。楽しいですよ」

昼休みにどのぐらい消化できるかが、鍵である。

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