07


混んでいる中で話ているから、邪魔になったのだろう。
邪魔、という声に謝りながら声の主を見るとそこには食べ物を手にした大野さんがいた。
大野さんは私と丸井君を見て納得したようにあぁ、と呟いた。

「大野も買ったのか?珍しいな」
「私はお弁当を持ってる。友達が購買で買ってみたいって言ってたのだけれど先生に呼出されて。
 委員会だって。けどこのままじゃ全部売り切れるかもしれないし。
 昨日もそうだったけど、そういう星の巡り合わせなのかもね」
「お優しいですね」
「柳生程じゃない。その優しさがどこから来るのか気になる所ではあるけど……」

肩を竦めて聞かないでおくわと無表情で続けた。
大野さんは基本的に無表情なので気にはしないけれど。
それで誤解を招いてしまうと彼女が言っていたが、直す気はないらしい。
親しい人がきちんと知っていれば構わないとそう言っていた。

「ねぇ、柳生にお礼するなら私にも何か頂戴」
「はぁ!?お前には」
「飴、二つね」

すっと手を差し出す大野さん。
只ならぬ威圧感に丸井君は渋々、ポケットから飴を取り出す。
包み紙からしてレモン味だ。

「俺の方が損してるだろ、これ」
「誕生日会のアイデア提供もしたでしょ」
「それとこれは」
「それに普段からお世話してるんだし」
「それこそ!」
「ま、まぁまぁ」

危ない空気になってきたので止める。
食べ物の恨みはなんとやらとは言うがここで喧嘩されてしまっては困る。
また今度買ってくれば宜しいでしょうとこの場をおさめた。
大野さんはこれで満足したみたいでさっさと購買から出て行く。

「丸井君は桑原君を待たせてしまっているのでは?」
「ジャッカルだし、平気」

平然と言ってのける。
それは丸井君の桑原君の絶対的な信用から来ているのだろうけれど。
苦笑いを浮かべてしまった。
丸井君も教室に戻るという事で、共に歩き出す。

「そのケーキ、立海SPECIALなんだぜ」
「あぁ、去年優勝したケーキですね」
「大翔がねだってな。
 それに近々、女子に頼まれて作り方教えてやるんだ」
「作り方をですか。すると丸井君のお家に招いてと言う事で?」
「家庭科室を借りる。先生と仲良いし作ったのあげるって言ったら一発!天才的だろぃ」
「それって賄賂のような気もするのですが」
「細かい事は大雑把にも気にしない。
 それにもうそろそろ卒業だろ。先生もちょこっと甘いんだ」

高校に上がっても同じ校舎だ、と言うのはこの場合野暮か。
使うエリア自体は違うのだし。
丸井君の料理の腕は確かなもの。
周りの人の気持ちも解らなくはない。
教室に戻って、別れ際。

「柳生、改めて昨日はありがとな」

と、笑顔で言って去って行って。

「嬉しそうだな、柳生」

教室に入ったら先に食事を摂っていた柳君がそう告げた。
真田君と共にとると言う事で自然、幸村君も側にいる。
真田君、柳君の間という定位置に腰を降ろしながらそうですか?と首をかしげる。
とぼけてみたけれど実際そうなのだろう。

「ねぇ、柳生。その袋なに?」
「ケーキですよ。先程丸井君に頂きまして」
「ふーん。だから甘い匂いしていたのか」
「……丸井はケーキなんて持って来てたのか?」
「そう苦い顔しないで下さいよ、真田君。私にお礼といって下さったものなのですから」
「柳生は丸井に何かしてやったのか。だから機嫌がいいのだな」
「蓮二、そう言うとなんか柳生が偽善者ぽく聞こえるよ」
「そうかそれはすまないな」

笑顔と言うのは見ていて気分が悪くなるわけでもない。
そして中でも先程のような。
嬉しそうに言ってくれるあのような笑顔が一番好きなのだから。
人に親切にするのにたいした理由なんてない。
ただその笑顔が好きなだけなのですよ、と心の中で「差出人」に返事をしてみた。


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