05


案内された幼稚園に入り丸井君の代理で来たと説明した。
丸井君の弟さんとは数える位しか合った事がない。
覚えているかと心配していたけれど杞憂だった。
丸井君と同じ紅の髪揺らし、嬉しそうに飛びついてきたのだから。

「こんにちは、大翔君」
「こんにちは、やぎゅうのお兄ちゃん!」

底抜けの明るさを伴った笑顔。
丸井君と似ている。
兄弟とはやはり、似るものだ。

「ふぅん、この人がやぎゅうさん」

大野さんの隣に居る子。
恐らくは若林さんの妹さんなのだろう。
どこか剣呑な色を持っているのを感じて、笑いかけてみた。
佳織、と言う名前だと大野さんが教えてくれる。

「はじめまして」
「やぎゅうさんって、なぎささんと付き合ってんの?」
「……は?え、いえ、違いますよ」

ふぅん、ともう一度言う。
なんだかませている子だ。
剣呑な瞳はもしかして、私に大野さんを取られたと思ったからだろうか。
おそらくは「近所のお姉さん」的立ち位置に大野さんはいるのだから。

「同じ委員会なんですよ、大野さんとはね」

安心してください、と言ったら興味を失われたらしい。
大野さんに何か話かけ始めた。

「やぎゅうの兄ちゃん。早く帰ろうよ」
「はい、そうですね」

大翔君に促されて、大野さんと幼稚園を後にした。

「大野さん、ありがとうございました」
「うん。じゃあね」
「ええ」

丸井君は準備が終わっているのいいのですが。
念のためにメールを送っておいたら準備は滞り無く終わっているらしい。
大翔君も浮き足立った面持ちで歩いている。
この年の子は寄り道が多い。
あちこちに興味を示して、全て付き合っていたら日がくれてしまいそうだ。
何もかもが新鮮なのだろう。
子供というのはちょっとしたものでも宝物になってしまうと。
手紙の内容を思い出す。

「ただいまー!」
「おじゃまします」

丸井君の家の中は見事に飾り付けられていて大翔君も大喜び。
凄い、凄いを連発している。

「柳生、助かった」
「このぐらい何でもありませんよ」
「大翔もこの通りで良かった。どう、天才的ぃ?」

大翔君もそうだけれど。
丸井君も同じくらいに楽しそうに笑った。
こんなふうに笑われて気を損ねる人なんていない。
私も笑い返す。

「もう私は帰りますね」
「せっかくだし参加してけよな」
「家族水入らずを邪魔する気はありませんよ」
「そっか。気をつけて帰れよ」
「ありがとうございます」

大翔君にお誕生日おめでとうございますと一言、言い残して丸井君家を後にした。
風の寒さは変わらないけれど。
私の心は満ちていた。

「一日一善、ですね」

次は一体どんな手紙がくるのだろうか。
明日が待ちどうしい。


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