変わる、換わる?


次は移動教室だ。
私と一緒に行動するようになった仁王君だけれど今日からは、違う。
今日は仁王君の新たな一歩を迎える日だ。
真っ直ぐと前を見る瞳に大丈夫だと確信する。

「丸井……一緒に行かん?」

騒がしい教室で、仁王君の声だけやたらはっきり聞こえてくる。
あぁ、緊張しているのだ。
自分の事じゃないのに緊張してるなんて言ったら仁王君は笑うのだろうか。
丸井君はまんまるの瞳をさらに見開く。
あ。目が合った。
すると目を細めて笑みを作った。

「なーに、ぼけっとした顔してんだよぃ。さっさと行かなきゃ遅れるだろ」
「……ぼけっとしてんのはブンちゃんじゃろ」

なにおー!と叫んで、肩を叩く丸井君。
大げさに痛がってみせる仁王君。
うん、大丈夫そう。

「由希ちゃん」
「……いいの?」
「うん」

我が侭に付き合ってもらってごめん、と言えば千尋はそれでいいのと返答。
全く話していなかってというわけでは無かったのに、こういう何気ない会話が懐かしく感じる。

「芦屋!」

声に振り返る。

「あんがとう」
「サンキューな!」

同じで、それでも違う言葉が重なった。見事にばらばら。でもらしい。
二人に手を振って歩きだした。

廊下を歩きながらふと空を見上げる。
今朝は晴れてたのに雲が空を占領し始めていた。
この分だと、帰る頃には雨が振るかもしれない。
傘、持って来て良かった。

「千尋はさ」
「ん?」
「本当にそれでいいの?」
「やけに拘るね、そこ」
「拘るよ。だって友達の事だもの。千尋のそういう所、素直に尊敬するけど」
「そういう所って?」
「だから、わかんなくて良いって。そこもまた千尋らしいしさ。
 けど仁王が元に戻ったとしてもそれで千尋と縁が遠くなるのとはまた別」
「喧嘩してないから、遠くはなってないよ」
「千尋は、曇りだねー」

解らない例えをする。
それはえっと、つまり。
雲によって正解が見えない、空が見えない。
曇りだって事なのだろうか。

「男友達と、女友達ってやっぱり違うから多少はね。
 違くなっちゃうよ。そりゃあ、ちょっと寂しいけど」
「ふぅん……。私にはそう見えなかったけどね」
「何が?」
「若いうちは悩むのが仕事」

ふっと笑う由希ちゃん。
自分で考えろって事か。
由希ちゃんはよくそういう事するから。
よく周りを見ているせいか時々達観した物言いをする。
老熟した冬のようだ、とも感じなくない。だって、考え方が古い時があるから。
この話題を打ち切るのと窓に水滴がつき始めたのはほぼ同時であった。

「あーあ、降っちゃった。私、傘もってない」
「折りたたみ傘持ってるから貸そうか?」
「いいの?」
「今日は長いの、持って来てるから」
「なのに何で持ってるのよ」
「いつも持ち歩いてるの」
「世の中上手く出来てるねぇ」

二つ持ってる人と、持ってない人。
それでプラスマイナス零。
それはなんだか傘の事だけではない気がする。
仁王君の事だって。
テニス部の人と別れて出会った私。
離れた私と近づいたテニス部の人。

「それってなんか、怖いね」
「急にどうしたの」

それってすげ替えが効くって言っているかのようで。
すげ替えなんて本当はできないて解っているけれど。
けれど。
それは足下を切り崩されるような感じ。
雨によって、弛んだそれはあまりのも簡単に壊れてしまう。
泣いているのか。
何の為に?
そう感じるのはなんで?

「あ、幸村精市」

向かい側から歩いてくる彼。
普段一緒にいる柳君や真田君はいない。
クラスが違うからか。

「芦屋さん」

ちょっぴり嬉しそうな顔を見て私は反対になんだか気が滅入った。
なんだか私、嫌な子だ。
ありがとう、と言われて私は疑問符を頭に浮かべた。

「さっき、仁王と丸井が歩いているの見たんだ」
「あ、そっか。うん、良かったよね」

お願い事。引き受けたと言ってもいいのか曖昧だけれどそれでも仁王君の為に何かできたらって思ってて。
それで。

「時間ないから、じゃあね」

由希ちゃんが私の腕を引っ張て歩きだす。困ったような表情をしている幸村君に謝る。

「謝らなくていいよ」
「幸村君の事、嫌いなの?」
「違う」

何が、違う、だ。怒ったような口調は全然説得力がない。

「だって、千尋は幸村と話していたらきっと一人傷つく」
「そんなこと」
「幸村の気持ちもわかるから、口出しはしない。
 ねぇ、でも千尋。何も思ってないわけないでしょ」

話せ、と言外で言っている。
強引だけどそんな所が由希ちゃんなんだ。

「……仁王君、前に進めて良かったて思う。
 素直にそう思ってるのに思えるのに私、嫌だって思ってる。嫌な考え」
「あのさ、関係が今のままである必要はないんだよ?」

小さな子をなだめるように頭を撫でられる。
優しく、安心できるような。でもなんだか、違う。
私が求めているのは、もっと違う気がする。

「千尋も進まなきゃいけないみたいね」

仁王君は進んだ。
では、私の一歩は一体どこに向かって、どこに進み始めればいいのだろうか。


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