01
しゃりしゃり、と皮をむく音が静かに部屋に響く。
「今日の部活はそんな感じですね」
林檎をウサギ型にむいたのを渡す。
「ありがとう」
病院で精市先輩に部活の報告。
他のメンバーは病院の最寄り駅の三つ前から走ってくるのでまだいない。
お見舞いの為に時間を潰せないし。
そうすると精市先輩が気にやむからね。
ちょっとでもトレーニングをする。
最近、リストバンドに入れるおもりを増やしたりもした。
全ては立海三連覇の為に。
「部長!見舞いに来ましたよ!」
赤也がガラッと音を立てて入ってくる。
「赤也、入室は静かにせんか」
「気分はどうですか、幸村君」
「悪くはないよ」
「今日は駅前の新作ケーキだぜ」
「自分で食べる確立は八十四%だがな」
「ふふ、全く相変わらず想像しい連中だな」
「すまない、幸村」
「でもたまには騒々しくないと暇じゃろ」
「そうだね」
皆が来る時の精市先輩はとっても嬉しそう。
部活でなかなか来れないけれど。
それでも合間を縫って来てしまうのは精市先輩のその顔を見たいからなのだろう。
「一時間三十七分と二十秒です」
一通り挨拶を済ませたのを見て時間をつげる。
走った所要時間だ。
「やはり四つ目の坂が原因だな」
ノートに書き込みながらの柳先輩の言葉。
それぞれも反省点を言う。
それがお見舞いの時の習慣。
「皆、お疲れさま」
労るような声音。
それから思い思いに騒ぎだす。
赤也なんて精市先輩にすごく懐いているから。
しっぽが見えるよ、心無しか。
時間が許すまで精市先輩の体に触らない程度のギリギリまで病院に居座る。
少しでも精市先輩に寂しい思いをさせない為に。
去って行った後の静寂がより強くなるかもしれないけれど。
それでもこれしかやる事がないのだから。
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